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ああ、玉華殿 10

 山桃の木から下りられなくなった俺を受け止めてくれた小学生、忘れもしない少年の正体がこの人だったとは! 俺の中のヒーロー像がガタガタと音をたてて崩れた。  だが、言われてみれば面影がある。親父が俺を連れていたように、豊城茂伸氏が自分の息子を連れて十五年前のパーティーに参加していた可能性は十分考えられる。  もしかしたらあの時、互いの父から紹介されていたのかも。まったく憶えがないのは三歳児の記憶力として仕方ないとしても、今までその事実に気づかなかったなんて、この頭がいかにボンクラなのかを思い知らされて、俺は軽い目眩をおぼえた。 「山桃の木から下りてきたお姫様は僕にとって、まるで月夜の晩に現れたかぐや姫、運命の出会いを感じました。山桃ではなく竹林なら、もっとムードがあったと思うと残念です」  竹林だって? 枝がなくてつるつるしているのに、ガキに登れるわけねーだろうが。 「君は僕の顔を忘れていたみたいだけど、僕は一瞬たりとも忘れたことはありませんよ。何といっても初恋の人ですから」 「はっ、初恋ぃぃっ!」  素っ頓狂な声を上げる俺を笑顔で見つめながら、聖爾さんは「あれから随分と経ちましたが、再会のときをずっと待っていました。また会えて嬉しいです」と言った。  あの日、彼は女装をした俺に一目惚れした。そして十五年後、自ら頼み込んで、お見合いというより俺との再会の場をセッティングし、席に臨んだのだ。
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