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ああ、玉華殿 13
ならば、日本を離れれば忘れられるだろうと、ついにはイギリスの大学へ留学したのだが、かの地はゲイ先進国のお国柄。
「男が男を好きになって何が悪い」という考えに感化されて、開き直った彼は俺との再会を決意した、とまあ、そんな具合だ。
「帰国してすぐに君との見合いを設定してくれるよう、父に頼んだのですが、我が親ながらしぶといところがあって、なかなか首を縦に振らなくてね。君と会わせてくれなければ会社は継がないとか何とか、あれこれ脅しをかけたら、やっと承知したんですよ」
十五年もの間、初恋の人との再会を待っていたなんて、しぶといのはそっちじゃないのかと俺は呆れ返った。
茂伸氏が簡単に承知しなかったのはウチの親父と同様に、もしも見合いが失敗に終わった場合、双方の会社の関係が気まずくなるのを恐れていたからだと思う。
出来ることならば避けたいが、息子の決意は固い。そこで親父に今回のことを持ちかけた上に「結婚を断ってはならないと娘に言い聞かせる」という条件をつけた。未来の社長で秀才、おまけに美男子。我が息子ほどの男が相手なら、断る女などいるはずがない、そういう自信もあっただろう。
初めて見合い話を切り出した時の、親父の態度が切羽詰っていたのはその条件のせいであり、今日用意された場は結婚相手を吟味する機会ではなく、これで決定だという両家の顔合わせ。俺の選択肢はひとつしか用意されていなかった。
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