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入部決定! 三曲同好会 8

 青柳の答えを聞いた瞬間、胸がズキッと痛んだのはなぜだろう。俺は何を動揺しているんだ? ヤツが誰と話をしていようと関係ないじゃないか。  そうだ、これは相手の偽りに対する憤り、俺の前でホモ宣言までしたくせに、本当は女もいけるというのを見せられて、嘘をつかれたと感じているだけだ、きっとそれだ。  こちらの姿を認めた聖爾は「これから練習だから」と言って二人を追い払うと、中に入るよう手招きし、俺たちはその場所に恐る恐る足を踏み入れた。  襖を開けると、そこは続きの八畳間が二つ、奥の方にはサッシ窓がついているが、障子を閉め切っているせいか、どこか薄暗い。どちらの部屋も最近畳替えをしたようで、藺草の青さばかりが目立っている。  手前の八畳には炉が切ってあり、茶室代わりに使えるようになっているが、いかんせん男主体の大学に茶道関係のサークルは存在しないために無用の長物。もったいないけど、ここで茶道部を発足させる気もない。  奥の八畳の上座に鎮座している老人がどうやら緑川教授らしく、すっかり白髪の好々爺だが、以前は工学部の学部長を務めていた人物で、今でも学部内での発言力は大だという評判を耳にした覚えがある。  畳の上にちょこんと正座した緑川教授を取り囲むようにして同好会のメンバーが談笑していて、その場には尺八が数本と琴古流の楽譜、地唄用の三味も二棹用意され、丸袋に入れられた箏も壁に立てかけてあった。

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