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入部決定! 三曲同好会 11

 跡継ぎとして扱われるのがイヤだという理由だけで、箏や三味に触れるチャンスから遠ざかるべきではなかったのではないか。  本当に好きなことならば、跡継ぎ云々に関係なく自分の意思で続けて、そして機会があれば異種の楽器とも合奏して、楽しみを広げる。そんなやり方があったのでは……? 「まあ、大切なのは基本ですので、まずは正しく音を出すところから練習を始めましょう。そうだ、せっかくですからみんなで始める前に、豊城くんと綾辻さんに演奏のお手本を示してもらいましょうか」  緑川教授のいきなりの提案に俺は面食らった。箏を最後に触ったのは何年前だっけ? ずっと練習を拒否していたのだ、指がまともに動きっこない。  自分から入会すると申し出たくせに何たるザマ、このままじゃ土方さんの前で恥をかいてしまう、冷や汗が背中を伝った。  そんな俺の様子に気づいたのか、聖爾は楽譜と箏爪を手渡しながら、こう囁いた。 「落ち着いてやれば大丈夫。君の得意な曲に合わせるよ」  そう言われるとなんとなく肩の力が抜けて、頷いた俺は生田流箏曲選集第一編のページをめくった。 「じゃあ、『六段の調』で、調絃は壱越調で合わそうかな、ロの音からでいいや」  尺八は竹という材質のせいで、吹き始めとしばらく吹いてからでは、同じ音でも高さが微妙に変わる。演奏中に音が変わってしまわないようにあらかじめ吹いて、温めておくのが音出しで、調絃も合奏するパートナーの音出し後の音に合わせるのがルールだ。

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