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誠さんと二人きりで……? 4

 まったく聞く耳持たないプルプル女の様子に、彼はそれ以上何も言わなかった。 「衣裳は思いっきりセクシーでキュートにするつもりよ。これでバッチリ差がついちゃうわね、ゴメンあそばせ」  高笑いする彼女を俺は唖然として眺めた。セクシーでキュートな衣裳はともかく、箏曲の中で最も有名な春の海を初心者同然のヤツが観客の前で演奏するなんて、とても信じられない。超有名なフレーズを間違えたら素人でもわかるし、プロであっても演奏となると大いにプレッシャーを感じる曲なのだ。  見栄っ張り女の考えそうなことだけど、無謀な挑戦をなぜ、聖爾は許してしまったのか。この際、演奏の失敗は衣裳で補えばいいと考えたとか。果たしてそれで入賞は狙えるのだろうか……俺のモノローグが聞こえたのか、「大丈夫、何とかやってみるよ。失敗したら、その時はその時さ」と聖爾は苦笑いした。 「美佐緒さんをお借りした上に、大変な役目を押しつけてしまって申し訳ありません」  恐縮した様子で誠さんが謝った。あの女と組んでコンテストに出るというのは、かなりの苦労を背負い込むと、誰もが察していた。 「こうするのが最善の方法だったんだから、気にしなくていいよ」  最年長のため、部長のような存在になった聖爾は室内を見渡すと声をかけた。 「さあ、休憩はおしまい。それじゃあ、タケはもう一度さっきのところから練習してみようか。絃方もよろしく」  誠さんはまだ何か言いたげだったが、それ以上は口を開かなかった。

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