82 / 120
誠さんと二人きりで……? 5
その後、ラグビー部の試合やら何やらで、応援団としての活動が忙しくなり、誠さんがこちらの練習に顔を出せる日は極端に少なくなってしまった。そこで彼は自分用の尺八を買い、プロの演奏が収録されている市販のCDまで購入。そいつを参考に、自宅で練習を重ねているらしいと、研究室で会ったという黒岩さんが教えてくれた。
「あっちと掛け持ちじゃ、あいつも大変だよな。それでもさ、六段はけっこう吹けるようになった、って言ってたよ」
その話を聞いて、俺は彼が現れる日を心待ちにしていた。早く会いたい、合奏してみたい。それから、あの時のことを訊きたい、訊けるはずはないけれど……
桃園恭子が漏らした「そこのオトコオンナに興味がある」という言葉、もしかして誠さんは俺を……なんてつい、淡い期待を抱いてしまったが、本当か冗談なのかもわからないし、仮に本当だとしても、俺が聖爾の婚約者だと信じている限り、彼はそんな想いを否定し続けるだろう。複雑な気分だ。
五月も終わり頃になって、誠さんは和室にようやく姿を見せた。紫外線の量が一年を通してもっとも多いという、五月の日差しの下で応援合戦をやったために、その肌は浅黒く日焼けしていたが、それも端正な顔立ちを損ねることはない。久しぶりに会えた喜びのあまり、俺は「御無沙汰しました」の挨拶に「どうも」と返事をするのが精一杯だった。
それからさっそく練習を開始。彼の腕前は思いのほか上達していたが、プロの演奏を聴き続けて耳が肥えた本人は満足していないらしく、もっと合奏をしたいと漏らした。
ともだちにシェアしよう!