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誠さんと二人きりで……? 7

 大慌てで出迎えると、ピンクのポロシャツを着た美青年が尺八の入った袋を手に、緊張した面持ちで玄関先に立っていたが、その全貌を目にした俺には奇妙な感じがしてならなかった。  誠さんでもピンク色を着るんだ、あまり似合わないな。この前の緑のチェックの方が良かった、いや一番似合うのは学ラン……おっと、そんなこと気にしてる場合じゃない。 「……と、遠いところをすいませんでした」 「いえ、お邪魔します」  互いに堅苦しい挨拶をしたあと、俺は廊下から庭の見える広縁を辿って、母屋の端にある稽古場へと誠さんを案内した。 「素晴らしい庭ですね、まるで老舗の旅館みたいだ」としきりに感心したあと「美佐緒さんはいつもそういう格好でいるんですか?」と、彼にしては意外な質問を口にした。 「そういう、って……ああ、Tシャツですか。そうですね、学校でも家でもこんな感じ」 「ボーイッシュなんですね」  ボーイッシュ、っていうより本物のボーイなんスけど。家では着物を着ているとでも思ったのかな。  障子張りの引き戸で広縁との間を仕切った稽古場は十二畳の広さがある和室で、床の間も何もないがらんとした室内には箏や三味の他にも、胡弓や琵琶などの楽器がまとまって置かれており、反対側の壁沿いには姿見やら衣紋掛けなどの和装用小道具。ここは着付け教室にも使われる場所なのだ。  興味深そうにそれらの楽器を眺めていた誠さんは「あの大きな箏は何?」と訊いた。 「これは十七絃といって、普通の箏の絃が十三本なのに対して十七本あるんです。絃が太くて、低い音がでるので、普通の箏がギターなら、こいつはベース、ってとこかな」 「なるほど、邦楽器は奥が深いね」

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