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誠さんと二人きりで……? 8

 あらかじめ用意しておいた箏の調絃を誠さんの音に合わせてやり直すと、俺たちはさっそく合奏練習を開始した。それが何とか形になってきたのを見計らい、一息入れようと手を休めた時、スルスルと障子が開いた。  湯呑みを二つ乗せた盆を手に、ちゃっかりと顔をのぞかせたのは小紋を着た上品そうな中年女性、誠さんに愛想よく声を掛ける。 「いらっしゃい。美佐緒がいつもお世話になって、ゆっくりしてらしてね」  あれほど出てくるなと言っておいたのに。御袋に続いて、なんと品子ババアまでが障子の内側を覗き込み「美佐緒の御学友がいらしていると聞き及びましたが」などとかましながら登場した。 「さあさあ、粗茶ですけどいかが?」 「まあ、志乃さんったら。せっかく我が家へいらしたお客人にはお薄を点てて勧めるのが礼儀でしょうに」 「あら、気がつきませんでしたわ、失礼」  誠さんに取り入ろうと試みるババコンビにイライラを募らせた俺は「いいから引っ込んでいてくれよ」と文句を言ったが、御袋たちは引っ込むどころかニヤニヤしながら、 「なかなかハンサムじゃないの」 「ほんに立派な殿方。今風に申すとイケメンでございましょう?」 「捕り物帳の同心役あたりが似合いそうね」 「若かりし頃に映画館で観た進藤勘十郎様を思い出しますわ」  誰だよ、それ。ババアも同調し、二人して誠さんを品定めしている。 「でも、浮気しちゃダメよ。あなたには聖爾さんがいるんだから」 「うるせえな、余計なこと言うなよ」 「おなごは生涯一人の殿方に尽くすのがさだめですよ」 「だから俺はおな……女じゃねえっ!」  次の瞬間「えっ!」と奇妙な声を上げたのは誠さん本人だった。

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