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誠さんと二人きりで……? 9

「どうかしました?」 「み、美佐緒さんって、もしかして……男?」  その瞬間から物凄く長い沈黙が続いた。長い、長すぎる。そして重い。このままブラックホールに吸い込まれそうだ。 「ほ、ほら、志乃さん、お薄を」 「そ、そうね。ちょっとお待ちになってて」  吸い込まれる前に御袋とババアは部屋から脱出、二人きりになった。 「……知らなかったんですか?」  沈黙を破ったのは俺、この問いかけに誠さんは黙ったままうなずいた。なんてこった、桃園恭子入会の騒ぎの場にいなかった誠さんと黄山は俺の性別にまったく気づかないままだったようだ。いくらなんでもアンテナが低すぎるのではと思うけど? 「すいません。騙すとか、そういうつもりはなくて……」と恐縮する俺に、うつむき加減の誠さんは小さな声で「いえ、自分も認識が足りなくて申し訳ない」と答えた。 「怒ってますよね?」 「そんなことはありませんが」  薄く頬を染めた誠さんは上目遣いにこちらを見た。その態度って、やっぱり俺のことを? 心臓が今にも爆発しそう、頭に全身の血液がまわったみたいでクラクラしてきた。 「いや、ダメだ。先輩と婚約……」  苦悶の表情を浮かべる誠さん、彼を苦しめているのは当然、聖爾との婚約話だ。好きになった相手もホモだなんて、ちょっと都合良過ぎって気もするが、すっかり舞い上がってしまった俺はそこまで考えるはずもなく、 「違うんです! せい……豊城さんとはたしかにお見合いをしたけれど、婚約までは……それに、その、他に好きな人が……」 「他に好きな人がいるんですか?」

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