87 / 120

誠さんと二人きりで……? 10

 誠さんは夢心地の俺を見つめ、さらに何かを言おうとした。が、その時、広縁を小走りにやってくる音が聞こえたかと思うと、またしても御袋が入ってきて、にこにこしながら誠さんの前にちゃっかりと座った。 「お待たせ~。さあ、お薄を召し上がれ」  げんなりしている俺には目もくれず、御袋は薄茶の入った茶碗と菓子盆を差し出した。 「いつもの亀屋吉兆のお菓子を切らしちゃってね、お弟子さんがくれた酒まんじゅうだけど、いいかしら?」 「は、はい、いただきます」 「それから学さん、ってウチの長男なんですけど、今大阪にいて、この前奈良漬を送ってきてくれたのよ。いかが?」 「奈良漬は奈良県じゃないの」 「美佐緒さんは黙ってて。あと、お口直しに甘酒もあるのよ」 「何だか酒っぽいものばっかりじゃん」  俺の突っ込みなど取り合う気もない御袋がそれらの食べ物を目の前にずらずらと並べると、その勧めを断れない誠さんはどこか引きつったような顔をしながらも微笑みを絶やさず、酒まんじゅうを、奈良漬を口にした。  とたんに、彼は真っ赤になった。顔はもちろん、手の先まで赤くなったのを見て俺たちはびっくり仰天、「どうしたんですか?」と呼び掛けると、誠さんは気にしないよう、首を振って合図をした。 「じつはぁ、アルコールに弱くってぇ……お酒とつくものをちょっと飲んだり食べたりしただけで、赤くなってしまうんですぅ」 「あらまあ、どうしましょう?」  うろたえる御袋だが、それよりも俺は誠さんの口調が気になった。この女子高生みたいな甘ったるい語尾の伸ばし方って? 酒まんじゅうで酔っ払ったのか? マジかよ……

ともだちにシェアしよう!