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いよいよ本番……絶体絶命、大ピンチ! 6
ああいう性格の女は苦手だ、自分から遠ざけたい、などと聖爾は話していたけれど、あれでなかなかいいところがあったりして、それでもって愛情を感じてコロッといってしまった。そんな展開が有り得ないとは言い切れなかった。
あーあ、「ホモなんかやめて女とつき合え」なんて、言わなきゃ良かったのかな……でもそれは俺自身が望んで、彼に告げた言葉じゃないか。何を血迷っているんだ、俺は。ヤツの好意は迷惑だ、ウザい、としか思っていなかったくせに、今さら未練たらしい。
俺には誠さんがいると諦めて、聖爾がホモからノンケへ方向転換したら、彼女と正式につき合い始めたら、勝負だの婚約解消だのはもうどうでもいいはずだ。何だか虚しくなってきたけど、応援団の部室のために最後まで頑張らなきゃいけない。
「……それでは十九番と二十番の方、会場まで移動をお願いします」
誘導係の声にハッとした俺は辺りを見回し、壁に立てかけた箏に目をやった。
「あの、すいません。楽器はどうしたら……」
「ああ、それはこちらで運びますので、先に行ってください」
係の言葉に促された俺たちは控え室を出て会場の前方左側の扉から中へ入った。その扉を客席から隠すように黒い幕が吊るされ、それは舞台の両脇に用意されている。幕の裏に控えて出番を待っていると、エントリーナンバー十七、聖爾たちの番になった。
舞台の上には立箏台(りっそうだい)と呼ばれる、箏を乗せる台とパイプ椅子が二つ設置されていた。
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