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第13話

 いったい、どんな思惑があって忍び込んできたのか皆目見当がつかない。ともあれ天音は、彫像と化したように身じろぎひとつしない。  家鳴りが静寂を破った。それを合図に天音が身をよじり、そろりそろりと前にのめる。  わたしは夢うつつのうちに身がまえた。もっとも、いまだに透明なロープで四肢をがんじがらめにされているように、手足の自由がまったく利かない。  ただ、宙を漂っては儚く弾けるシャボン玉のように、とりとめのない想念が脳裡をよぎっては消える。  と、ひらめいた。そうだ、そうに違いない。眼鏡をかっさらっておいて澄まし返るあたり、天音は意外に子どもっぽい部分があるようだ。  今回もわたしを驚かそうと目論んで、それで夜這いもどきの悪戯を仕かけてきたにちがいない。  では、そちらがその気なら、天音がおかしなそぶりを見せた瞬間に跳ね起きて、反対に度肝を抜いてやろう……。  天音が、しずしずと覆いかぶさってくる。シーツが波打ち、パジャマの袖口が、枕の横に投げ出してあった腕を掃き下ろしていく。  たったいま目をあけたら、里沙とよく似た顔を見いだすのだろう。そう思うと、混乱する。  実は里沙が、天音とともに計略を練ったという可能性はないか? つまり、こういうことだ。  里沙は山荘に先乗りしておいて、どこかの部屋に隠れていた。わたしが寝入ったのを見計らって行動を開始して、今しもベッドにもぐり込むところなのだ。  そして唖然とするわたしに抱きついてきながら、こんなふうに種を明かすのだ。  ──びっくりしたでしょ? ふふ、あなたを驚かす作戦は大成功。天音とふたりで計画を立てたのよ──。  ……いや、つい一昨日、ヨーロッパに向けて発つ里沙を成田空港に送っていった。フランス行きの便に搭乗するところも見届けた。  彼女は今ごろ、掘り出し物を求めて(のみ)の市あたりを見て回っているはずだ。

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