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第55話

「昨日の朝……おれが哲也とやっているところを覗いていましたね」  ポーカーフェイスを取り繕い、横を向いた。だが、の残像がいち早く瞼に焼きつく。股間の淡い翳りと、その中心に息づく性器。  後ろをうがたれている最中に、それがどういうふうに蜜をこぼし、どんなふうに跳ねて逐情を迎えるか、わたしはその答えをすでに知っている。 「……そう願って、うずうずしているはずです」 「事あるごとに人をからかって。きみの、おふざけにはつき合いきれない。早く服を着なさい」 「あなたは視線で何度も何度もおれを犯した。モラリストぶって綺麗事を並べても無駄です。今も横目でこっそり、おれの抱き心地はどうだろう……と値踏みしている」  右手が摑み取られた。うろたえ、抗しそびれているうちに胸元へいざなわれた。  天音は、わたしの指を用いて乳首をつまむ。象牙色の肌にぽつりとほの赤い、それを掘り起こすようにこね回す。 「やめろ、やめなさい。義理の……とはいえ俺たちは兄弟なんだぞ? 万一、過ちを犯してみろ、ふつうの浮気の何百倍も罪が重い。俺は里沙に顔向けができない」 「やせ我慢を張るのも度を越すと見苦しいですよ……おれは義兄(にい)さんともっと仲よくなりたい」    天音が身をよじり、わたしは生唾を飲み込んだ。匂やかな裸体は、いつでも抱き寄せられる近さにある。  いけない、天音の術中に陥ってはいけない。今すぐ彼を突きのけて、この場から立ち去るのだ。  ソファを蹴倒すように席を立ちかけた。だが先んじて膝の上に腰を下ろされてしまい、それきり石と化したように動けない。  乳首が徐々に芯を育てはじめて指の腹を押し返す。その、ちっぽけな粒がいじらしげに尖っていくにつれて、わたしの股間も意に反して萌むものがある。  まごまごしている間に、人差し指が口に含まれた。水かきの痕跡をふりだしに、背の部分に沿って、ねっとりと舌が這いあがっていく。  爪に行き着くと、背徳感をともなう疼きをかき立てながら甘皮をひとしきり舌でつついたあとで、来た道を忠実に折り返す。  その舌づかいは後刻、口淫によってもたらされる悦びをわたしに約束する、その予告編のようだ。  天音が口をすぼめた。かと思えば、うっすらと開いて舌が閃き、狡猾な笑みに見えるものを形作った。

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