57 / 68

第57話

   毒婦がと、わたしは呻いた。こうなったら毒を食らわば皿までを、だ。上等だ、あえて誘惑に乗ってやろうじゃないか。  わたしと一線を越えたことが里沙に知れたら、ただではすまないことに関しては天音も一緒だ。同罪だ、と釘を刺しておけば天音も墓場まで秘密を持っていくはず。  眼鏡をむしり取ってテーブルに放り投げた。その余勢を駆って天音を床に押し倒し、のしかかった。 「ムードも大切ですよ。ここだと背中が痛い、ですから寝室に場所を移してベッドで仕切り直しを……」  唇を唇でふさいで黙らせた。と同時に結び目を舌で割ると、昨夜とは一変して、いそいそと舌が迎えに出てきた。それをいなしておいて、藻のように揺らめく舌の裏側の粘膜を舌先でくすぐる。 「ん、ん……」  下唇をやんわりと咬めば、甘みを増した吐息がくぐもる。キスを一旦ほどいた。わたしは天音の耳の横に片肘をつき、もう片方の手で鎖骨から胸元へ至るラインをなぞった。  蔵書印を捺すように、濃淡さまざまなキスマークが上半身にちりばめられていて、それが目障りだ。その反面、試みに乳首を爪弾いてやれば、たおやかに上体が弾むさまに煽られてジーンズの前がいっそう窮屈になる。  頭を下げた。耳の下のくぼみをかじった。そこを起点に唇をじわじわと上にずらしていくと、天音はこそばゆげに首をすぼめた。  演技なのか、無意識に示されたものなのか、生硬さが感じられる媚態にタガが外れる。耳たぶを食み、耳殻の溝をねぶると、天音は目縁(まぶち)に紅を()いて上体をねじった。 「そこ……あまり、いじめないでください……ぁ」 「それは、そこは性感帯だからもっと咬んでくれという催促なのか」  図星だ。舌でこそげるように耳たぶを甘咬みすると案の定、乳首はぷっくりと膨らむ。天音は自ら足を割り開くと、わたしをその間に招き入れた。そして自身を太腿にすりつけてくる。  おざなり程度に茎をしごいてやれば、包皮がめくれて薔薇色の穂先が顔を出す。  きまり悪げに逸らされる顔を両手で挟みつける。そうしておいて固定しておいて耳の穴に舌を差し込めば、天音は観念したふうに背中に腕を回してきた。Tシャツをたくしあげながら、舌っ足らずな口調で囁きかけてきた。 「ギブ・アンド・テイクでいきましょう。晶彦さんも、脱いでください」  それには黙殺を決め込み、胸元に顔を伏せた。ひと粒ひと粒、乳暈を舐めた。  持ち重りがする乳房がないのは興ざめだが、肌理(きめ)のこまかい肌はベルベットのごとく手ざわりがいい。唇と舌で味わうに値する。

ともだちにシェアしよう!