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第64話

 ずるり、と陽根を引き抜く。それは、ねんごろにもてなされた後とあって湯気を立てているようだ。  腹這いになってソファの足下でとぐろを巻くジーンズを引き寄せた。煙草のパックを摑み出しながら乱れ髪を手櫛で梳いてあげると、仕方がないな、という体で天音はうなずいた。  山荘に舞い戻る羽目になってから数時間が経過していた。台風の目に入ったのか、表は静かだ。  未だかつて味わったためしのない甘だるさを反芻し、その一方で罪の意識に苛まれる。これは事故だ、貞節の誓いを破るつもりなど毛頭なかったなどと、今さら、どう言い繕っても虚しい。  わたしは、よりによって妻の双子の弟と過ちを犯した。この十字架は、一生背負っていかなければならない……。  天音は、けだるげに仰向けになった。腕を顔の前に持っていき、二の腕に鮮やかなキスマークを指でなぞって淡く笑む。ふと、こちらに向き直ると悪戯っぽく目をきらめかせた。 「オトコは、もちろん初めてだったんでしょう? 、少しは愉しめましたか」 「何事も人生勉強だ。官能ミステリの依頼があったときに今回の経験が、さぞかし活きるだろうさ」 「里沙と、どちらが抱き甲斐があります? ……当然、里沙ですね。愚問です、聞き流してください」  忍び笑いで締めくくると、天音はソファにすがって腰を上げた。それもつかの間、へたり込んむ。  蕾がほころんであふれ出したのか、とろとろと残滓が内腿を伝い落ちる。それが、すこぶるつきに艶めかしい。  たちまち欲望の埋み火をかき立てられた。天音と里沙を比較した場合、愛慾の限りを尽くしたいという衝動に駆られるのは、どちらだと?   断じて本音を吐くわけにはいかないが、それこそ愚問だ。天音を引き戻した。この期に及んで抗ってみせる躰を組み敷き、へそを折り目にふたつにたたむ。  サカりがついたみたいだ──頭の隅でそう考えつつ、足首を摑んで八の字に開かせた両の足を、それぞれ肩にかついだ。  穂先で襞を押し開いて、ひと息に愉楽の壺に分け入った。と、ずんと地鳴りが腹に響いた。 「近くで……ん、ん……山が、崩れたかも……ぁあっ」  喘ぐまにまに天音が呟いた。そうか、と生返事で濁しておいて、わたしは深奥を征服する。    同日同時刻、崖崩れが発生した。麓に至る道が寸断された。

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