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第38話【R18】

 真っ直ぐに暁人を見て言えた言葉に、琥珀色の目が揺れるのが分かる。伸ばした手に触れた彼の髪は短くて、くるりと巻いてしまう毛先を弄ぶことは出来なかった。  思いを込めて目元にキスをすると、ぐっと力強く抱きしめられてから座るよう促される。  着たばかりの服が引っ張られると、臍から上に向かって舌を這わされる。たったそれだけのことにぞくぞくと腰から背中に震えが走って、縋るように頭に絡めたままの指に力を込めた。 「っ、ん、ンっ、ぅあッ」  脇から胸筋を掴んだ手に胸の突起を弄られると、意に反してびくっと筋肉がひくついてしまう。くるくると優しく周囲を撫で回したかと思うと、ぎゅっと力を込めて引っ張られ、噛み締めようとしても声が漏れた。 「やめッ、そこ……は、ずかしいから」  逃れようともがくと、今度は強く吸い付かれて舌と歯でくすぐるように刺激をされる。焦ったいような中に腹の奥がきゅうと締まるような刺激混じり合い、少しずつ高められる感覚に目眩がする。 「も、いっから、はやく」  じりじりする刺激が逆に恥ずかしくて、先を強請るように下半身を擦り付ける。もっと直接的で、何も考えられなくなる感覚に流された方がいっそ楽だ。 「だめだよ。ちゃんと、ゆっくりするから」  力を抜いてと優しく囁かれると、その声にとろとろと思考が溶かされる。年上のくせにこんなに甘やかされて、今更ながら恥ずかしいのに、それがくすぐったくて嬉しい。 「ッう、う、そっちは、いっ……から」  ハーフパンツを下着ごとずり下ろされた下肢が、ひやりとした外気に晒される。緩く立ち上がった性器の先を指でくすぐられて、思わず流されそうになるのをなんとか拒んだ。  今日はそっちじゃない。そう言うのに、明らかにいかせようとする手の動きに翻弄される。 「やめっ、ん、ンンっ、ッあっ」 「一回出した方が、たぶん力抜けるから。ほら、我慢しないで」 「あ、あ、あァっ、ッう」  すっかり弱いところを知り尽くされたのか、的確に感じる箇所を刺激してくる手に簡単にいかされてしまう。  男の快感は基本的に、一気に駆け上がって墜落するように消失する。脱力感の中で一人冷静になってしまった頭が、この状況では逆に辛い。 「十分気をつけるけど、ちょっと急すぎてその、こんな物しかなかったんだ。痛かったり無理だと思ったらすぐに言って」 「わ……かった」  そう言う暁人が見せたのは、チューブ入りのワセリンだ。 「うわ、ごめん。箱があったからそのまま持ってきたんどけど、ゴムが……あと一個しかない」 「え」 「だ、だからさ、こんなことになると思ってなくて、急に言われてもその、自分でするときは使わない方だし」  逆さにして振られた箱から出てきたひとつきりのゴムを、思わず手に取ってしげしげと眺めてしまう。  確かにこれまで触れ合ったときにも、暁人はゴムやローションの類は使わなかった。ある方が色々と安全で便利なのだが、挿入行為をしないなら必須とまでもいかないので気にしていなかった。 「お前、昔は色々と持っていたじゃないか」 「そりゃ昔はね、てか止めてよ。いちおう隠してたじゃん」 「あんな隠し方じゃ、掃除のときに見つけても仕方ないだろう」 「もーーー、と、とにかく、失敗しないようにするから。多分やれる。うん、大丈夫。陸がお風呂に行ってる間にも勉強したから」 「勉強って、初心者でもあるまいし」  つい余計なひとことを言ってしまい、慌てて口を押さえたが遅かった。 「無神経だった。すまない」 「いや、陸にそっち方面は期待してないから。それより聞き捨てならないけど、俺が初心者じゃないってなに?」 「だ、だってお前、女性相手は経験豊富だし、男とだってその、あるだろう」 「え、女は否定しないけど、男はさすがに未経験だよ。なん……あ、あー、ああ、あの時のね」  ようやく陸が言いたいことに思い当たったのか、暁人が困ったように頭を掻く。いつまでも引きずって恨み節をするつもりはないが、佳とのことはやはり完全に忘れることは出来ない。  しかしそれを言うと、こちらも色々と薮蛇だ。なんだか気まずくなってしまった空気に黙り込むと、同じく困り顔の暁人がごめんと小さく呟く。 「信じてくれないだろうけど、佳くんとはさ、そこまではしてないよ。適当に擦って出しただけ。他にも好奇心でデートくらいはした事あるけど、陸以外の男の人には興味持てなかった。それに、お、男同士ってそんな簡単に出来るもんじゃないんだって。だから俺だって色々と我慢してッ、あ、いや」  乗り出すようにして力説してきた暁人の勢いに、吹き出しそうになるこをなんとか飲み込んだ。  今さらそんな確証もないことを言われても、変わるものなんてない。そう思うのに、ほんの少しだけあの日に受けた傷が癒されるような、そんな錯覚に陥ってしまう。 「ごめん、なんかあれだよね。今日はもう、止めておこうか」  ゴムも無いしとふざけて笑う暁人を、腕を絡めて引き倒す。我ながら単純だ。喉に残っていた小骨のような痛みが、じわりと溶けて消えていく。 「無くていい」  こちらは性行為そのものが十年ぶりという干からびた男だが、なんとか準備もしてきたつもりだ。  週が明ければ出国までもうカウントダウン。暁人と間を隔てるだけのゴムなんて、いっそ無くて構わない。

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