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「てことで、俺はおまえに死なないでほしい」
「あんまり深入りしすぎると嫌いますよ」
「ん、それは困る」
接続詞が仕事をしていない。
けれど、俺のかわいげのない返答には何故か嬉しそうに目を細めながらそう答えた。
相変わらず掴みどころがないというか、なんというか。食えない相手だ。
そう考えているうちに、心の底にある思いがふつふつと俺に主張してきた。
もう、言ってしまおうか。
どうせ話しても無駄だし、隠そうと思っていたけれど言ってしまったほうが実行には役立つかもしれない。
「先生」
「どうした優等生」
「俺、嘘つきました。恋してました」
「おっと、それは興味深いな」
その『恋した相手』の顔を思い浮かべながら、目の前にいる怠慢教師に向かってやや無感情に言う。
「そのひとは……その子は、俺の親友のことが好きなんです」
「……」
「笑えますよね」
俺も、俺の親友の恋も実らないだなんて馬鹿馬鹿しい。なによりも、叶わないくせに好きだという感情が心に住み着いていることがなんとも惨めで、惨めで、惨めで。
これだけでいなくなってしまいたいと思うのかと笑われたっていい。
─────ただ。
「俺の中で初恋だったんです」
「……」
「漠然と実るかもしれないって思ってた。どこにも絶対実るっていう保証なんかないのに」
はは、と案外乾いた声が口から漏れた。
なんとなく、目の前にいる先生の顔が見れない。
どんな顔をしているのか、確かめる必要なんて少しもないけれど。
「……馬鹿だな。おまえも、そのおまえが恋した相手も」
「……なにを」
「こんな最上物件から好かれてんのに気づかないそいつも大概だよな」
最上物件……? それって俺?
気づけば俺と先生の柵を挟んだ距離は近づいていて、俺が少しでも顔を近づければ触れてしまいそうだ。
だから、先生の綺麗な茶色の瞳に俺が映っているのすら見えて。
息が止まりそうだった。
「等価交換だ。俺のことも教えてやるよ」
「え、いいです」
「んなこと言うな。俺も実は絶賛片思い中なんだよ」
にこ、と子どもがするみたいに口の両端をくっと上げて怠慢教師が俺の顔を見て笑った。
だからなんだと言うのだろうか。
「その子の特徴を教えてやるよ。その子はクラスの中でも……」
「エッッッ生徒!?」
「おう」
さすがにモラルっていうものがあるだろ。
「その子は本当に真面目で。俺の授業なんかまともに聞かねえ奴も多い中ずっとノート取ってて。線は細めだけど少し力がある。色んな教師から優等生と称されていて、けれど怖がりで不器用。……ああ、ここ最近失恋したみたいだな」
「……せ、先生……?」
「ここまで言っても気づかねぇの?」
自惚れというわけでもなく。ただ、偶然全て俺に当てはまる。
いや、いや、まさか。そんなはずは……
俺は男でこのひとも男だ。
いくら怠慢教師だと言っても、さすがにそんな間違いを起こすはずは。
「失恋して死ぬくらいなら、俺を好きになって俺のために生きろよ。二年B組19番、椎名 律 」
「……え……は……?」
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