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俺の言葉に、優馬が大きく口を開けて笑う。
「はは、先生とは仲良くなれそう」
「……ひっ……」
やめろ……やばい会話ばっかしている未来しか見えない……そんな未来は嫌だ……
優馬は、クラスの中でも人気者のポジションで男女ともにかなり信頼されている。
そして運動神経もよく性格もいいときたらもうこれは恋をしてしまうだろう。
実際めちゃくちゃモテる。
しかも背も高い。
一体前世にどれほど徳を積んだらこんなにいい人間になるんだろう。誰か教えてほしい。かの有名なぐから始まるあの先生でもいいから。
「でも、あの先生って結構いい先生だよな。ああ見えて生徒のことちゃんと見てるし。……たまに授業抜け出すのはちょっとあれだけど」
「ちょっとな」
そう、意外と生徒のことを見ているのだ。怠慢教師だけれど。
でも怠慢教師だからたまに授業を抜け出していく。
その理由がニコチン摂取なのだから生徒指導の先生から指導されてもおかしくないだろうな。しょっちゅう首の根っこを掴まれながら戻ってくる。
本来生徒を指導するための教師が教師を指導するなんて……
「でもな、俺見ちゃったんだよ」
「なにを?」
「先生が、重い荷物をひとりで持ってる女子生徒の荷物をなにも言わずにさっと持ってって、その女の子が顔赤くしちゃってるとこ」
「……おぉ……?」
教師が生徒のことを手伝うというイメージがあまりなかったから、驚いた。
優しいところあるのか……あの怠慢教師にも……
今まで特にあの先生のことを意識はしていなかったのでなんとも思っていなかったけれど、いざ思い返してみれば確かに優しかったような気もしなくはない。
というか、授業は普通にわかりやすい。
どちらかというと数学は苦手で、二年生になると急に内容が難しくなるけど、あのひとの授業を受けたところは大体解けるようになる。
そういう意味では文句なしだと思う。
まあ、授業を放棄するところ以外は。
けれども生徒にだいぶなめられており、ばっしーというあだ名もつけられている。当然俺は呼んだことはない。呼ぶつもりもない。
そのあだ名をあの先生も容認しているし、教師の中では若いので歳が近いから親しみやすいと思っているひとも多いんだと思う。
「イケメンだし、女子からも人気なの知ってた? なんか大人の色気〜って感じする」
「優馬も十分かっこいいよ」
「おー、さんきゅ。律はどっちかと言うと美人だよな。あ、いやちゃんとかっこいいんだけど」
「それ聞くの何十回目?」
優馬はよく俺の容姿を褒めてくれる。
だから俺も優馬のことを褒め、また褒められるという褒め合い合戦がたまに繰り広げられてしまう。
褒められることにそこまで慣れていない。
そう言ったことがあるのだが、そうしたら「じゃあ慣れるまで俺が褒めてあげる」って言われた時にはさすがに後ろにぶっ倒れそうになった。
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