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 自らのありえない失態に、かーっと顔が赤くなっていく。 「可愛いなあ。そんな勘違いするなんて」 「うっ……」 「あと、望月さんのことだけど。男を取っかえ引っ変えしてるって噂だし、実際俺の友達も被害受けてたし。律はきっと傷つくからやめといたほうがいいって言おうとしてたから丁度よかったよ」  律があまり女子と交流がないのをいいことに、そこにつけこもうとしたのかもな。  Tシャツに着替え終えた爽介が、微笑みながら俺を見つめてそう言う。その言葉にどきっとして動きを不自然に止めそうになった。 「で、あと聞きたいことは?」 「いや、もう大丈夫」 「そっか。これでもう元気な律が見れるんだったら俺は安心だよ。死んでもいい」 「なんだその冗談は」  実際に死のうとしていた人間にそのジョークは少しいたたまれない気持ちになるというか、まあ、なんというか。  俺も練習着に着替え終え、バッシュの紐をきつく結び直す。 「さて! じゃあバスケするとしよう。一年はぶっつそうか」 「勿論」  気合いを入れ直し、既にアップを始めていた一年と二年メンバーを集めてゲームを始めた。  いざゲームが始まると、気合いが入った状態の爽介と俺が何度もシュートを決め、大きく点差を広げて圧勝した。   「ん、おまえら今帰りかー?」    初夏とはいえ動くと暑いため大量にかいた汗を拭い、爽介と優馬と俺の三人で駐輪場へ向かっていると、怠慢教師が丁度帰路につく頃だったため遭遇してしまった。 「ばっしーじゃん」 「やめろよ、おまえまでそのどっかのご当地キャラみたいな呼び方」 「とか言って嬉しいんでしょ」 「は? 当たり前だろ」    優馬と先生の会話に、爽介がははっと大きく笑った。  そういえば、先生はどうしてこんな時間まで残っていたのだろう。  なにかの部活の顧問というわけでもないだろうに。  俺が疑問に思っていると、同じことを思っていたのか爽介が口を開いた。 「ばっしー先生はどうしてこんな時間まで?」    ……ばっしー先生…… 「俺だって教師だからな。授業の準備してたり、生徒に質問されるからそれに応じたり」 「質問?」 「おまえら知らないのかよ。数学準備室でわからないとこあったら火曜日だけ質問受け付けてんの。つっても男子にしか教えてねえけど」 「えー初耳」  俺も初耳だ。  もしかしたらどこかで言っているのかもしれないけど、ノートをまとめるのに必死で聞いていなかっただけかもしれない。    というか、さっきから全く先生と目が合わない。  なんでだ。 「それって俺たちも行っていいんですか!?」 「おうもちろん。でもおまえら部活があるだろ?」 「あ、そうだった……で、でもテスト期間とか!」 「テスト期間はそういうのやってねえんだわ」  明らかに優馬がしゅんとした。  まるで大型犬みたいだ。  そんな様子を見かねて、先生がふはっと噴き出して優馬の肩をぽんと叩く。 「しょうがねえなあ。もしそんなに俺に質問したいんだったら月曜日の放課後来いよ。特別に準備室解放しといてやっから」 「え、ほんとですか!?」 「おまえら特別な。まあ気分で来てもいいし来なくてもいいし。とりあえず解放はしといてやるよ。他の奴らには内緒で」 「ばっしー大好き!」 「はいはい」    怠慢教師に抱きつこうとした優馬の頭をがしっと掴み、若干呆れ気味で相手をしている。  そんなに優馬が先生に懐いているのは正直びっくりだ。そういえばこのひとのことは好きだと言っていたような……   「ま、優等生には必要ねえかもだけどな」  そこで初めて俺の目を真っ直ぐと見た。    優等生というのは俺のことで、つい驚いてなにも言えずに目を見開くことしかできない。  色々な出来事があったものだから、どう反応すればいいのかわからなくて反応に困っていると、爽介が俺の肩を組んでにかっと白い歯を見せながら笑い、先生に言った。 「やっぱ律って優等生ですよねー。なんでもかんでも真面目に考えすぎちゃうっていうか」 「爽介……」 「律も機会があれば月曜日一緒に来ればいいじゃん。数学だけは昔から苦手で二年になってから急にできるようになったとはいえ」 「……へぇ……?」  先生がにやにやしながら俺を見つめている。    い、いや、別に先生の授業がわかりやすいからとかじゃないし。俺が毎日勉強を頑張ってるだけだし。

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