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 夜。セミが合唱しているかのように鳴いており、外はまだ蒸し暑い。  部屋が思っていたより涼しくならなかったので、冷房の温度を一度下げてからカーテンを締め直す。  勉強しようと思い机の前に座ると机の上に置かれた真っ白な封筒が目に入った。  俺の中で遺書と名付けたそれは、すっかり死ぬ気をなくした今見るとなんだか馬鹿馬鹿しく感じる。  そうして、改めて計画を練り直す必要がある。  今日は……色々あったな……    飛び降りようと思ったら担任に止められて。    告白されたかと思いきや、本当に俺のことが好きなのかは未だわからず。  気まずい思いをした親友の誤解はすっかり解けて。  担任に対しての疑問が浮かんで。  整理をするには出来事が多すぎる。  もういいか、このことは。    問題集を開いてルーズリーフを一枚取り出し、シャーペンを手に取ろうとするとスマホが震える。  ……電話?  電話を掛けてきた主の名前を確認した瞬間、思わず「うげ」と声が出る。  表示された名前は、麻橋柊羽。  いやいや、待て待て待て。  なんで俺のスマホにこのひとから電話がかかってくるんだ。しかも五分以上経ったらお金取られるやつ。  出るつもりはないけれど、このまま出なかったら明日変なことを聞かれるかもしれない……  それはそれで面倒だな……  いや、でも出る必要なんてないんじゃ?  迷って迷って迷った挙句、いきなりかかってきた電話に出ることにした。 「えっと……もしもし、なんですか……」 『勉強中悪いな』 「する前でした」 『はは、外れたか』  夜だからか、いつもの話し声よりも掠れている声が耳に直接響く。  心臓が大きくどくんと跳ねて、急に鼓動が早くなった。  え、なにこれ。   「急になんですか?」 『ん……なんとなく』    なんとなく、だなんて。そんな理由で電話をかけてくるはずがない。  どうせ俺のことが心配でわざわざ電話をかけてきたのだろう。  教師がこの時間に暇なはずがないだろうし。  全く……お節介というか…… 「ていうか、どうして俺のスマホの電話番号を知ってるんですか」 『前回収した書類に書いてあったからな』 「なっ、わざわざメモしたんですか?」 『そんなことするわけないだろ。覚えてただけだよ』  覚えてた……って、さらっと言うけど11桁の数字の羅列を簡単に覚えていられるはずがないと思うんだけど。 『数学教師なめんなよ。普通に興味ある奴の電話番号くらい覚えるっつうの』 「そこまでくるとちょっと異常っていうか引くっていうか」 『引かれた分詰めてくから安心しろ』 「……う、命だけは」     俺の言葉に、ははっとスマホの向こうで笑っていた。 『そういえば、ご家族は?』 「あ、一緒には住んでないです」 『へぇ……』 「俺、どうしても今の高校に入学したくて、無理してお願いして一人暮らしさせてもらってるんで」  って、なに先生には関係ないことを言ってるんだ。  こんなことを言ったってどうにかなるっていうわけでもないのに…… 『じゃあ、おまえの家に行ったらなんでもしたい放題ってことか。ふーん』 「……」  どうにかならないことなかった。

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