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 そこから先生からの質問攻めが続き、電話を始めてから10分ほど経った頃。 『っ、と……勉強しないといけないのに、長い間引き留めるわけにはいかねえか』 「いえ、平気ですけど……」 『たまには勉強しない夜なんてのもいいかもしれないけどな』  特に長い間というわけではないけれど、俺に対しての気遣いなのかそう言ってくれた。  今思えば、今での質問は少しでも俺が自殺しようとしてたというのを紛らわせるために言ってくれたのかもしれない。  電話を急にかけてきたのも。  ……なんて、考えすぎか。 『あんまり、無理すんなよ』 「……!」  少し優しさの滲んだ声色に、誰も見ていないのに唇をくっと結んでしまう。  先生にはやはりバレてしまうものなのかな。  なにを無理していたのかと問われれば自分でもよくわからないけれど。 『じゃ、俺はこれで』 「えっと……その、最後に聞きたいんですけど」 『ん?』  電話を終わらせようとする先生を引き止めてしまう。  不思議と名残惜しいと感じてしまった。特に用があったわけでもないのに。  それでも先生は、俺の言葉を待っていてくれていることだろう。 「どうして電話をかけてきたんですか……?」    恐る恐る、といった感じでそう質問するとなにかしらの作業をしていたのか今まで聞こえた小さな物音がぴたりと止んだ。  もしかして、してはいけない質問だったり。  しまった、と思った頃には遅かった。 『んー……』  スマホ越しに聞こえてくる悩むような声。  吐息がぶつかったのか、先生の声が息のノイズで濁る。  不思議とそれを嫌とは感じなくて、先生のことばをただただ待つ。  すると先生が閉じていた口を開いたのか、くち、という僅かな粘膜音がした。 『声が聞きたかった』 「っ……」 『っていう理由にしといていい?』  さすがに聞き返すのはずるいだろう。  そんなことは当然言えずに、上手く回らない頭でなんとか考えてから、言う。 「……いいんじゃないんですか」 『そっか』  電話だと、先生の声がすごく柔らかく聞こえる。  補正でもされているのだろうか。  よくわからないけれども。  こうやって夜に誰かと話すのはどのくらい久しぶりなのだろうか。    いつも夜は、独りだから。 「あの……」 『今度はどうしたんだよ』    少しだけ笑いながら、先生がそう言った。  ……自分でも、なんだかよくわからない。  先生の声がどこか懐かしい響きを持っていて、俺は小さい子どもでもないのに先生と電話を終えることを寂しいって思うだなんて。 「俺から電話、かけたりするのは、迷惑ですか……」 『……』  電話の向こうで、息をはっと吸う音が聞こえた。  先生の返答を待って数秒。  大きくため息を吐く音が聞こえる。 「あの、せんせ……?」 『おまえさあ、それは反則だろ……』  

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