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 先生が言っている反則という言葉の意味がわからず、首を傾げていると先生が『ああくそ、』と言ってまた大きく息を吐き出した。  息が内蔵マイクにぶつかる音が聞こえる。 『……俺の声が聞きたくなったら、いつでもどーぞ?』 「わかり、ました」 『はは、つっこまねえんだ』 「つっこんでほしいんですか」 『一応俺はおまえに突っ込みたいとは思ってるけどな』  ……ん? それは一体どういう……  やけにニヤついたような先生の声で、なにを言おうとしているのかがすぐにわかり顔に熱が集中する。  っこの怠慢どエロ教師め! 「はい! ありがとうございました! さよなら!」 『おやすみ〜』  くっくっと笑いながらそのことばを言い残し、俺からさよならと言ったにも関わらず先生から電話を切られた。  最後まで大人の余裕というものを見せられてしまった。  こんな思いをさせられて、勉強に集中できるはずがない。  集中しない勉強なんて頭に入らないし意味がないに決まっている。  先生のせいなのに、なぜかムカついたりだとかはしない。それもこれも、先生が俺の気持ちを汲んでわざわざ電話をかけてきてくれたことに嬉しいと思っている自分がいるから。  こんな、懐柔されるみたいな……  それも今日というとても短い時間の間に。  まだ先生の優しく掠れた、大人の色香が残る声が頭の端にこびりついて離れない。  骨の髄まで支配されてるみたいだ。こんな感覚、俺は知らない。  集中して勉強できないのなら、もういっそのこと寝てしまおうか。  最近は考え事ばかりしていて頭も使っているから、たまには睡眠時間を確保してみるのもいいのかもしれない……  と、またこうやって先生の言葉に惑わされる。  あのひとの生徒でいる限り、先生には勝てない気がしてきた。勝つ気持ちも負けているとも一ミリたりとも思ってないけれど。  もういい、寝よう。  寝てしまおう。     部屋の電気を一番暗いものにし、淡いオレンジ色で照らされるふかふかのベッドに横たわる。    横になった途端、今までの疲れがどっと身体にのしかかってきた気がした。  久しぶりの感覚に、すっと目を閉じる。  久しぶりに見たその日の夢には、麻橋先生が出てきたような気がした。  ……生徒の自殺を教師が止めるなんて、そこら中によくある話。  ─────ねえ、先生。  俺はあなたに止めて欲しかったのかも、なんて。    嘘まみれの、虚偽の俺を。

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