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朝。
今日は自転車ではなく、時間がぎりぎりになりそうだったのでバスに乗っている。
バスの混み具合があまり好きではないため普段は自転車で高校まで行くけれど、寝すぎてしまったので仕方なくバス。
混んでいるから嫌い、というのもあるけれどもうひとつは────
「え、あの制服って超賢いとこのじゃない!?」
「やっぱ制服もお洒落……ていうかあのひとかっこい……」
こうやって注目をされてしまうこと。自意識過剰というわけではなく、本当に。
俺が通っている高校は、都内でもそれなりの進学校。制服を着ているだけでも目立ち、なによりも他校からは顔面偏差値まで高いとの言われようだ。
まあたしかに、顔が整っているひとも多い。
俺は顔の整っている整っていないの区別がつかないので正確なことは言えないけれど。
つり革を掴み、付箋だらけの参考書を読む。
こうした待ち時間ですらもったいなく感じて、少しでもインプットするのに必死だ。
少しでも勉強を怠るとすぐに置いていかれてしまう。
高校の休み時間などでは友だちとの時間を大切にしたいからあまり勉強をしないからこそ、こういうところでの小さな勉強を欠かさずにやらないといけない。
とか、それっぽいことを言ってみるけど。
要は勉強していないと不安なだけで。
今日は数学の小テストがあったっけ……
だったら英単語よりも数学の見直しをしたほうがいい気がしてきた。
けれど今さらリュックから別のを取り出すのも面倒だし、あと少ししたら高校の最寄りのバス停まで着くからいいか。
……それよりも、さっきから隣に立つ男のひとから妙な視線を感じる。
男のひと、というよりは教師……
気づかないふりを続けているものの、さすがに視線が痛い。あと、香りで気づく。
隣に立つ、激しく見覚えのある先生に恐る恐る声をかけてみる。
「えっと……先生」
目でちらっと先生のことを横目で見ると、先生も俺のことを見ていたからすぐに目が合った。
朝から爽やかなことで。
「バスの中でも優等生だな。なんだ」
「なんで先生もバスを?」
「車が修理中でな、代車ももらったけど高校には教師が登録してあるナンバーでしか停めれないからしょうがなくバスで来てるってわけ」
そうだったのか。
それにしてはかなりの偶然だな……
「ま、本当はほかの先生と一緒に来たんだけどな。駅でバスに乗り込むおまえを発見して、急いで車から降りて急いで乗り込んできた」
「さすがにそこまでくると変態ですよ」
「褒め言葉をどうもありがとうな」
いや、褒めてない。
「ていうかなんでここまで俺に執着っていうか、気にかけてくれるんですか」
昨日だってわざわざ電話をかけてきてくれて。
今日も俺を見かけたというだけでバスまで乗り込んできて(この行為に関しては少し恐怖を感じるけれど)。
純粋に疑問に思うだろう。
バスには他のひとも乗っているため、小声でそうやって聞いた。
すると先生は薄い唇の端をゆっくりと上げて、口を開いた。
白い歯が覗く。
「そんなの、おまえを狙ってるからに決まってるだろ?」
「……」
「なんとも思ってない生徒にここまでしねえよ」
狙ってる……
その言葉に意識を全て持っていかれて、顔が少しだけ赤くなっていくような気がした。
いや、赤くなるな、俺。
「そんな贔屓みたいなことしていいんですか」
「贔屓じゃねえよ。特別扱い」
だからそういうのがよくないって……!
そう反論しようと思ったけれど、特別扱い、と囁いた先生の横顔がとても嬉しそうに見えてなにも言えなかった。
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