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バスがブレーキの振動で揺れる。
俺が先生のほうに倒れそうになって肩どうしが触れ合う。
いや、正確には先生のほうが俺よりも背が高いから俺の顔あたりに先生の肩が当たる。
「大丈夫?」
そう言って先生は俺が立っているほうの右腕で、俺の身体を控えめに支えた。
どうやら俺が人混みが苦手だというのに一瞬で気づいたらしい。
こういうところが先生っぽいというか、先生ってちゃんと教師なんだなと思い知らされるというか。
と言ってもこの先生のことはあまり知らないのだけど。
「へいきですよ」
「そ」
バスがまた発進するのに合わせて、先生の手もそっと俺の腕から離れた。
先生が触れたところが熱を持っているように思えて、熱い。
夏服のためワイシャツ一枚だけを通した先生の手は、直接触れられたかのように温度まで伝わってきた。
窓ガラスに映る俺の顔が赤らんでいるのは、人混みだから暑いだけだと心の中で必死に言い訳して、最寄りのバス停に到着するまで先生のシトラスの香りに包まれて揺られながら待った。
*****
「おー、外はあっちぃな」
「ですね……」
バスの中は冷房が効いていたためそこまで暑さを感じなかったものの、外はとても暑い。
今年は猛暑のため暑い日が続くのだとか。とはいえさすがに暑すぎる。
夏服は比較的自由な組み合わせが可能だが華奢な体型を隠すためにベストを着ているため、服の中に汗が滲む。
先生は紺色のワイシャツ一枚に黒いネクタイを緩く巻いており、首元に薄く汗が滲んでいた。
「先生ってよくカラーシャツ着てますよね」
「そうだな。それがどうした?」
「暑そうだなって……」
「とか言うおまえのほうが暑そうだけどな。まあベスト似合ってるけど」
腰あたりのベストの素材をつままれ、腰に指が当たった感覚に口元がぴくんと歪んでしまった。
先生は気づかなかったみたいだからよかった。
「昨日はよく寝れた?」
ベストを掴まれたまま、顔を覗きこまれた。
木陰を歩いているため、先生の顔がよく見える。
よく見えるからこそ、昨日の電話の掠れた声を思い出してしまって、意識をして。
あー……勝手に恥ずかしい思いをしていること自体がかなり恥ずかしい……
「まあ、そうですね」
「それはよかった。俺もいい睡眠だったよ」
「……先生も?」
よく寝れたならよかったけれど、どうして先生まで?
「おまえの声ってすっげー落ち着くからさ。俺も寝る前におまえの声聞けてよかった」
「……」
「また、しような」
「っ……!」
耳元で囁かれた。
昨日みたいに少し掠れて、低い声。
それにミルクみたいな糖分が混じっている。
電話より何倍も直接先生の声が響くような気がして、思わず囁かれたほうの耳を手で押さえて先生のほうにばっと振り向いてしまった。
すると先生は悪戯が成功した子どもみたいに無邪気な笑みを顔に浮かべていて。
「へぇ、そんな顔もできるんだ」
「……っ、う」
「俺がそうさせてると思うと、結構」
「も、うやめてください! もう!」
耐えきれなくなってそう叫んでしまった。
すると先生はさっきよりも何倍も無邪気な顔をして楽しそうに笑った。
あー、弄ばれた……
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