うんざりするほど暑い中先生と歩き、昇降口前で別れたので靴を脱ぐ。 　先生と一緒に歩いているとき、女子生徒が生き生きと挨拶をしていてやはり先生は人気なんだなと思った。 　見た目だけで言えば完璧だから高校生の女子からしたら堪らないんだろうなとか思うとなんだか複雑な気分になる。 　それはもう色んな意味で。 　はあ、とため息を吐いて上履きを履き終えると、後ろから「あの……」と声を掛けられた。 　 　不思議に思って振り向くと、名前もわからない一年生の女子だった。 　上履きの色が俺たちの学年の青ではなく赤なためすぐに一年生だとわかった。 「ん？」 　何度かこのようなことを経験したことがあるけれど、なるべく怖い印象を与えずに次の言葉を促す。 「その、放課後時間ありますか……？」 「部活の前なら」 「お話したいことがあって……中庭に来て欲しいんです！　お願いしますっ」 　ぺこっと勢いよく頭を下げられた。 　 　────一体高校に入ってから似たようなことが何度起こったか。 　なんて心情を顔に出さぬようにほんの少しだけ微笑んでからゆっくりと頷いた。 「わかった」 「ありがとうございます……！」 　 　するとその一年はぱあっと顔を輝かせて、ぱたぱたと走って友人の元へ行った。 　微かながら、よかったね！　や、頑張って！　などの応援の声が聞こえる。 　残念ながら、想いに応えることはできないけど。 　こんな俺のどこがいいのか、と告白される度に思う。 　よく顔が整っているとは言われる。けれどそこまで背が高いわけでもないし、体格だってよくない。どちらかと言うと細いほうだ。 　だから彼氏にするにはあまりにもたよりないだろうと思っていたのに、高校に入ってから告白される回数が格段に増えた。 　 　中学では大して告白はされなかった。 　 　高校に入ってから顔つきが自分でも驚くくらいに変わり、幼さが削がれて一気に男性らしい顔つきになった。 　中学では女みたいだと何度も言われたが。 　そのおかげで、久しぶりに会った中学の同級生におまえ誰！？　と言われるまでに男らしい顔つきになったのだ。 　とは言っても、まだ完全には男らしい顔にはなっていないけれど。 　女子がどういうのを好むのかが全くわからないな…… 「おはよ、モテ男め」 「っわ」 　なんて考え事をしていたら、後ろから爽介に肩を叩かれた。 　振り向いたら、爽介がにこっと笑って俺の肩を掴んだまま上履きを履き直していた。 　朝から爽やかだ。眩しい。 「何回目なんだろうな、律が呼び出されるのって」 「さあ……」 「一年生の間でイケメンすぎて直視できないとか言われてるんだって」 「それは爽介とか優馬だと思う」 「嬉しいこと言ってくれるじゃん」 　いや、本当に。 　爽介だって何度も呼び出され、何度も告白をされていた。 　入学直後なんて、爽介と優馬は特に騒がれていたものだ。俺は付属品のようなものだからそこまでではなかったけれど。 「律はいつも謙遜するけど、自分がイケメンだって自覚したほうがいい」 「そんなこと言われてもなぁ」 「謙虚め」 　顔が整っているのは勿論自覚している。 　ただ、その自信を顔に出していないだけだ。自分のどんな顔がどう見えているのかも把握している。 　まあ顔だけで見られることが多いから中身を知ったら離れていくひとも少なからずいるけれど…… 「でも、律って結構こっぴどく振るよな」 「そんなことないと思うけど……」 「いや、俺知ってるぞ。私のこともっと知ってほしいですとか言われても別に興味ないんだけどって言ったこと」 「なんで知ってるんだよ！！」