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 爽介は腹を抱えて大爆笑してるし、叩かれた奴はびっくりして俺を凝視してるし、西田はそいつを心配してるし、西田じゃない奴はカラスの鳴き声みたいに笑ってるし。  当の俺は言葉すら出てこない。  色気……色気って……  ひーひー言ってた爽介が涙を拭いながら体勢を元に戻して言った。 「それは俺のクラスの奴らも言ってる。どんだけエロい歳上の彼女がいるんだって」 「……」 「でも中学から知ってる俺からしたらなんともないけどな。律は高校生になって急に大人びたから、そういうのもあるのかもしれないけど」  ……まあそれもよく言われるけど。  と、そこで休憩終了のブザーが鳴った。  ゆっくりしていた俺たちは慌ててバッシュの紐を結び直す。  ……てか、なんだったんだ今の会話。 ***** 「ネクタイピン外れそうになってるよ」 「やば。ありがと」  その、次の日の部活終わり。優馬と一緒にファストフード店に行くことになった。  お互い注文し、テーブルに座ったところでそう指摘されたので慌てて直した。    爽介も誘ったけど妹の誕生日だからすぐに帰らないといけない、と言っていたので優馬とふたり。俺と爽介は地元から東京に越してきたから爽介の家族は地元で暮らしているけれど、今日は東京にきてちょっとお高めのレストランに行くらしい。  爽介と爽介の妹は八歳差らしく、そんな妹のことを爽介はかなり可愛がっている。  シスコンと言ってもいいかもしれない。  とはいえ、優馬と完全にふたりきりでこうやってご飯を食べるのもかなり久しぶりだ。 「律ぅ、俺この前の現代文の授業寝ちゃってさぁ……」 「ノート見せろ、でしょ」 「……はい」 「いいけどさ、いくら理系クラスだからと言って現代文の授業で寝ていい言い訳にはならないよ」  俺たちは理系クラスで、理系クラスが4クラスもある中奇跡的に三人とも同じクラスになったのだ。    そして、優馬はいつも現代文の授業で寝ていて、爽介と俺と交代交代でノートを見せてもらっているらしい。  それに関しては構わないけど、去年から現代文で連続で赤点を取り続けているのは明らかに原因が居眠りだろう。  こいつ本当、どうやってこの高校受かったんだよ。  まあまあ偏差値高いぞ。  バッグからノートを取り出し、ページをぱらぱらとめくって確認をする。  ……あ、しまった。 「ごめん、俺最初の方抜けてる。爽介に聞いて」 「わかったー。律がノート取れてないって珍しくね? ……あ、そういえば最初の方いなかったっけ」 「……う、うん」  現代文の担当の先生は結構歳がいってるジジイだから、いなくても体調不良として片付けられるだろうと思ったから自殺するために抜け出した。  それが現代文の授業の初めの数十分間だった。  すっかり忘れてた……なんて説明しよう。 「あんま無理すんなよ。どうせ夜遅くまで勉強してたんだろ」 「……まあ」  してなかったけど。  いつか、あの出来事を優馬と爽介にも説明する日が来るのだろうか。  それとも、俺がそれよりも先に死んで他の誰かが説明してくれるだろうか。  なにも俺は、諦めたわけじゃないから。 「俺は昨日漫画読んでたら気づいたら朝になっちゃってたよ。勉強するよりずっといい時間過ごせたわ」 「あーうん、もうすぐテストだってこと知ってる?」  まあ、このお気楽馬鹿に言うつもりなんてないけど。

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