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優馬にしては真面目なこと言ってるなーなんて思った俺が馬鹿だった。
そもそもなにを言っているのか正常な俺では理解ができない。
俺、優馬になら口喧嘩で論理的に勝てる気がする……
なんてことを思いながらハンバーガーに齧りつく。
なにを食べても太りにくい身体はこういう時にものすごくありがたい。
どれだけ食べても身体に影響が出ないから、心から味わうことができる。
ジャンクな味が美味しい。
「てか、ばっしーも言ってたじゃん。『学生のうちにしかできないことをやれ』って」
ばっしー……あ、麻橋先生。
そんなふざけたあだ名もあったな、そういえば。
「社会人になったら働き詰めになっちゃうんだろ? だったら、今ははっちゃけてもいいんじゃないかなーって俺は思うわけよ」
「……まあ、そういう考え方もありだね」
「だから俺はテストはどうでもいい」
「そこ直結しねえから」
麻橋先生は、勉強と好きなことの両立は学生の時にしかできないぞってことを言いたかったんじゃないのかな。
あのひと、なんかいつも言葉足らずな感じするし。
曖昧に言うから優馬みたいな馬鹿が増えるんじゃないか。
「でももう二年生かー。しかも一ヶ月もしないで夏休み入っちゃうだろ? 早すぎね?」
「早い」
「来年は周りが受験勉強始めて遊べなくなるから、今年はいっぱい遊ぼうな」
優馬が弾けるような笑顔で恥ずかしげもなく俺にそう言った。
馬鹿な奴だな、とは思うけど優馬のこういうところはめちゃくちゃ好き。
良い奴なんだよ、結局。
……と、言いつつ優馬は去年彼女と遊びまくってたけど。
今年の夏休みも優馬は彼女を作りそうだな、なんて思っていると優馬が俺のことをじーっと見つめて、言った。
「てかさー、律って急にばっしーと仲良くなったよな」
「フゴッ」
「え、おい大丈夫かよ」
こ、コーラが鼻から出そう。
別に仲良いわけじゃないし、しっかり話したのは昨日が初めてなのにそう思われていることがあまりにも衝撃的すぎる。
急に爆弾を落とさないで欲しい、本当に。
慌てて口元をペーパーナプキンで拭き、息を整える。
「……気のせいだよ」
「ふぅーん……?」
誤魔化そうと思ったけど、どうやら優馬には通用しなさそうで、顎の下で手を組みながらニヤニヤと俺のことを見つめていた。
なんだその顔は……
「俺さぁー、昨日は言えなかったんだけど、昨日の朝見ちゃったんだよねぇ。ばっしーと律が一緒に登校してるとこ」
「……!?」
「うわ、見たことないくらい動揺してる顔だ」
嘘だろ、よりによってあのとき優馬に見られてたのかよ。
あの時間なら知り合いはいないと思ってたのに、運悪すぎる……
いつ見たんだ。
バスを降りたとき? 信号待ちをしているとき? 腰の部分を掴まれていたとき?
「しかもばっしー、律の腰の部分掴んでたし。朝からなーにやってんだよとか思ったよねー」
「……」
それが一番見られたくなかったんだよ。
なんで見てるんだよ見るなよ。
俺だってやめろって言ったけど、やめてくれなかったんだからしょうがないだろ……
しかもやけに強い力で掴まれてたし。
「なんか掴んできてただけ。俺が頼んだわけじゃないし、あのひとだってただの気まぐれだと思うよ」
誤解が生まれてるなら解こう、と思って言った言葉だったけれど、どうやら優馬には別の疑問があるらしく、「うーん?」と首を捻っていた。
伸びかけの前髪が、優馬の目に被さっていた。
「いや、俺からは掴んでるってより捕まえてるように見えたぞ? なんていうか……『行くな』みたいな?」
「え」
「ただの信号待ちなのに、先生もちょっとだけ怖い顔してたし、なんかあったのかなーって思ってさ」
……もしかして、先生は俺がどさくさに紛れて赤信号で飛び出すんじゃないかと思った、とか?
だから俺の腰の部分を掴んで、行かせないようにしてた……?
うわ、うわうわうわ。
俺、先生に心配されてたってこと? だから昨日はああいう風に腰に手を回して、密着して、逃げれないようにして……
「……律?」
「なに、まだなんかあんの?」
「そうじゃないけど……」
優馬が俺の顔を控えめに指さす。
「めちゃくちゃ顔、赤いよ」
「っっ!」
なんであのひとは平然とそういうことができるのか意味がわからない。
(……思い出した……)
先生に触れられた部分の、熱の濃さを。
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