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どうやら俺は、かなりあの先生に気にかけて頂いているみたい。
あんなにふらふらっとしてて、なにも考えてなさそうなのに。
「え、そのハンバーガーそんなに辛い?」
「いや、違う」
「じゃあ暑いとか? 冷房がんがん効いてるけど」
「……体内の温度が急上昇しただけだよ」
「え、なにそれ俺もやってみたーい」
あの時の熱を思い出したせいで、味が濃かったはずのハンバーガーの味が一切わからなくなってしまった。
夜12時。
抜けていた分の現代文のノートを爽介に写真で送ってもらったのを写し、出されていた数学の課題をやり、気づいたらこんな時間になっていた。
9時半にはお風呂から上がって勉強を始めたのに、やっぱり勉強していると時間が経つのが早い。
数学の課題はすぐに出さないといけないという訳ではないし、そろそろ疲れてきたので勉強を終わりにすることにした。
凝り固まった肩をぐるぐると回して解し、くあぁ、と欠伸をする。
卓上電気を消し、背中からベッドにダイブをする。
重心が変わったことで一気に楽になり、脱力感と疲労感でいっぱいになった。
目を閉じたらこのまま寝てしまいそうな気がして、重い上半身をなんとか持ち上げて部屋の電気を消す。
冷房のタイマーをセットして薄手の布団を被り、寝る体勢に入ろうとしたその時だった。
スマホの着信音が鳴り、いい感じに寝れそうだったところを邪魔されてしまった。
……こんな時間になにかしら送ってくるのなんて、あの先生しかいないだろ。
と、思ってスマホを見てみると、送り主は爽介だった。
爽介は比較的早寝だから、どうしたんだろうと思って目を擦る。
どうもぼやけて文字が見えづらいけど、やっと焦点が合って文字を読むことができた。
『夜遅くにごめん。明日は部活オフだから、ゆっくり休みな。最近の律、疲れているように見えたから』
明日の部活の連絡と、俺を気遣うような内容だった。
相変わらず優しいな、と思いながらその通知をタップし、メッセージを送る。
『わかった。そんな疲れてないよ。でも心配してくれてありがとう』
そう送ると、すぐに既読がついた。
『そう? ならいいんだけど。ばっしー先生が心配してた。最近顔色悪いから無理させないでやってって』
「……えっ」
え、あのひとが?
『そんなことないのに、あのひとって心配性だな』
『いや、顔色悪いって気づくくらい律のことをちゃんと見てるってことだと思う。だって』
そこで吹き出しが途切れ、新しい吹き出しが画面に表示される。
『そのときの先生、結構律のこと気にかけてたように見えたから』
……今ここに先生はいないのに、どうしてだか、あの先生の顔や声が鮮明に浮かび上がった。
ああ、もう。
優馬も爽介も、俺のことを気にしてくれて本当に優しい。
けど、それ以上に麻橋先生は優しい。
……のかもしれない。
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