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「う、ぅっ……」
「大丈夫? 俺やるからいいよ」
「いいです、俺がっ……んっ……」
「あんま無理すんなって」
「平気です、って、……あっ!!」
────遡ること、数十分前。
*****
「頭上げろって」
今俺は、麻橋先生に対してかなり深く頭を下げている。
正直、俺は麻橋先生に対して頭を下げるなんてことは絶対したくなかった。
だって、頭を下げたらなんかしてきそうだし、なにより俺がしたくないし。
けど、けど……
「もう一回言います……」
引き下がるわけにはいかない……!
「俺に、数学を教えてください!!」
「頭上げろってば」
「いっ、嫌です。いいって言ってくれるまで上げません」
なんでこうなったのかと言うと。
あれから時間は止まることなく経っていき、とうとうテスト二週間前に入ってしまったわけだけど、どうしてもテスト範囲である数学の理解に苦しんでいた。
公式は増えるわその癖にわかりづらいわ複雑だわで俺の頭は風船が割れる直前の如く限界を迎えた。
ただでさえ数学はひとよりも苦手だから頑張らないといけないのに、頑張って勉強してみても一切わからない。
要するにお手上げ状態ってことだ。
勉強に関しては、俺はこの高校に通いたくて通っているんだから手を抜くつもりは一切ない。
けど、努力がそのまま結果に結びつくとも限らない。
試しに今日の数学の授業で出された複雑な問題を解いてみたけど最初からわからないし。初めて数学の授業で寝たよ。
なんで理系入ったんだよ、俺。
「先生に頭を下げているのは、俺の中ではこの上ない恥です」
「……お、おう」
「でも、やっぱり俺は先生から教わらないとわからないと思うんです。たとえどんなに先生がポンコツでどうしようもなくて授業放り投げて生徒に舐められてニコチン中毒でどエロムッツリスケベ男だったとしても……」
「おいい、ここ職員室!」
そう、しかもここは他の先生もいる職員室なのだ。
わざと先生が断りづらい環境を選んだにも関わらず先生は中々首を縦に振らない。
だから強硬手段に出てみたけど、あまり意味はなさそうだ。
だってこのひと職員室でもちょっと変人扱いされてそうだし。
「わかった。わかったから頭上げな」
「えっ、ほんとですか……!」
「すっげえ目キラキラしてるぞおまえ」
そりゃあ、一対一で先生に教えてもらえるんだから嬉しいに決まってる。
授業だとどうしてもひとつひとつの問題にかける時間が短縮されてしまうし、授業後に聞きにいくにもわからない場所が多すぎるから。
ようやく俺は頭を上げ、先生が書類やらなんやらを重ねていく様子を見つめる。
すると、先生はいきなり俺のことを不敵な笑みで見つめ、周りに聞こえないくらい小声で言った。
「……ま、数学準備室でふたりきりだから、なにされても文句言うなよ」
「……ひっ」
「懇願しちゃって、もう逃げられないね?」
……あれ……
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