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適度に会話をしながら、ようやく数学準備室に到着した。
先生はナチュラルに俺を先に入らせ、扉を閉めてがちゃっと鍵をかけていた。
……ん? がちゃ?
「さて、やっとふたりきりだな」
「え、まあ、はい……?」
「……悪いけど、お勉強を始める前に手伝って欲しいことがあってさ」
先生にしては珍しく、少し申し訳なさそうな顔をしながら俺にそう言った。
肩を竦め、眉を少し下げながら。
……なんともわざとらしく。
「俺も教わる身なんで、お手伝いがあるならやりますけど……」
「あ、まじ? じゃあ……」
少しだけ暗かった先生の顔が段々明るくなっていき、俺は嫌な予感がした。
と、同時に。
「資料探すの手伝ってくんね?」
*****
……それで、先生が見つけたい資料がかなり上の棚に入っていたから、俺が脚立を使って取ろうとしている、というわけだ。
先生は俺がやる、と言っていたけど背が高い先生が小さい脚立に乗っているのを見ると逆に怖いので俺がやることにしたのだけど。
俺、高いところ苦手なの忘れてた。
脚立に乗るくらいなら大丈夫だろう、とか思っていたけどまあまあやべえ。
足場が不安定だから余計恐怖を煽られる。
「ほんとに大丈夫か? 心配なんだけど」
「大丈夫で、す……!」
覚悟を決めて脚立の上で背伸びをして、必要だという資料をがしっと掴んだ。
よかった、取れた……
はあ、と身体の力が抜けて安心する。
これで借りを作らずに済んだ。
と、身体の力が抜けたことによって重心が崩れたことに気づくのに時間がかかってしまった。
気づいた時には後ろに傾いていて、脚立から脚が外れて────
「……!!」
どうしようもなくてぎゅっと目を瞑ると、なにかに受け止められるような感覚がした。
なんだろう、なんで背中の辺りが痛くないんだろうと思って目を開けると、どうやら俺のことを先生は受け止めてくれたらしくて。
「ぁ……ありがとうございます……」
「……やっぱりとは思ったけど、おまえ高いところ苦手だろ」
「う」
「あんま無理すんな。役に立とうとしてくれたのは嬉しいけど、それで怪我したら元も子もないし、資料を見つけてくれただけで俺は助かるから」
怒られるかと思ったけど、子どもに語りかけるくらい優しくそう言われた。
……姫抱きをされたまま。
思ったよりもずっと先生の顔が近い位置にあって、意味もなくドキッとしてしまった。
いくら俺が細身だからと言って、軽々と姫抱きができるはずもない。
一見筋肉がついてなさそうに見えるこの身体は、割と筋肉がついてるのかな、羨ましいななんて随分場違いなことを思ってしまった。
「もう大丈夫か?」
「……あ、はい」
「下ろすぞ」
ゆっくりと俺の足を地面につけ、俺がしっかりと自分の足で立つと先生はほっとしたように息を吐いていた。
……それにしても、どうして先生は俺が高いところが苦手だろうと見抜いたんだろう。
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