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 とりあえず先生がどうして俺が使っているシャーペンを把握しているのかは忘れて、問題に集中することにしよう。  先生が途中まで解説してくれたから、それを思い出しながら慎重に解いていく。  途中まで解いたところで授業の内容を思い出したので、ペンがすらすらと動くようになった。  数学は、解けるようになってからが楽しい。  答えを出す寸前まで行き、いざ答えを導こうとすると先生が急に俺の右手を掴んだ。 「はい、ストーップ」 「え」 「解き方は合ってる。けど、それじゃ違う答えになるぞ」  じゃあ、計算ミスをしているということ?  それよりも、先生に掴まれた右手の方に意識がいって仕方がない。  なんでこんなに流れるように触れてくることができるんだ、この先生は。  先生の手は思いのほかするりと離れていき、今まで解いてきた途中式を見直す。  すると、わかりやすいくらいの計算ミスを見つけ、「あ」と声に出してしまった。  あ。ちょっと今のは恥ずかしい。 「見つけた?」 「はい。ここですよね」 「せいかーい」  先生との距離が近いことを忘れて思いっきり先生の方に顔を向けると、先生も俺の方に顔を向けてきた。  綺麗な先生の顔が間近に迫る。  キスをする直前のような距離感に、俺はつい反射的に身体ごと仰け反って顔を隠してしまった。  そして、そのままの勢いでソファに寝転ぶかのような体勢になった。  うわ、なにやってんの俺。  そんな俺の反応を見て、先生は一瞬びっくりした素振りを見せたかと思えば、急に笑い始めた。 「いや、まじでおまえの反応初々しすぎだろ。普通女子でもそうなんないって」 「先生が近いのが悪い……」 「はいはい、いいから起き上がって」  いや、それで起き上がったら起き上がったでなんか悔しいから起き上がりたくない。  そんな俺の固い意思が伝わったのか伝わっていないのか、先生は座っていたはずなのに気づけば横たわっている俺に覆い被さっていて。  それに俺が気づいたのは、恐る恐る顔を隠していた腕を外した時で。 「だから近いんですって……!」 「はは、ごめん。おまえが可愛い反応するからつい」  えへ、と言いながら舌を出した先生。  それで済まされるのは少女漫画の中の女の子だけだっつの。あんたは24歳の成人男性だろ。  とは言えず、俺は無言で至近距離にある先生の顔を見つめる。  というか、近い。本当に近い。  もしこれが少女漫画だったらページを存分に使って押し倒されている光景が描かれているのだろうけど、残念ながら男と男だ。  周りに花の絵が散らばったりはしない。  お互い自然と口が引き寄せられたりもしない。  はあ、勉強中なのに……   「先生意地悪……」  起き上がって問題を解きたくても先生が覆い被さっているから起き上がれない。このまま起き上がれば少女漫画コースまっしぐらだ。そんなのは嫌だ。  先生の目を見ながらそう言うと、先生は急に無言になってただ俺のことを見つめた。  え、なに、なに。 「おまえ……それ俺以外の男の前でそういうこと言うなよ」 「え、だって覆い被さる先生が悪いじゃないですか」 「あー……うん、そうだな。じゃあ再開しようか」  すると先生は呆気なく俺の上から退き、俺の手を引っ張って俺のことをいとも簡単に起き上がらせた。  ……元からこうしてくれればいいのに。

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