37 / 148

3-7

 そして雑談をした後、また勉強を再開した。  そこからは俺が解けない問題があったら先生に聞くという方法に変え、先生は俺の隣でなにやらパソコンで作業をしていた。  先生に教わったおかげで大体の問題は解けるようになり、あとは復習を入念にすればテストは大丈夫そうだ。  他の教科を疎かにするわけにもいかない。  テスト一週間前になれば部活はなくなるし、今回のテストも前回と同じくらいの順位だといいんだけど。  ちなみに俺は基本的に五位以内を死守している。前回は二位だった。  問題をいくつか解き、解説を見ながら丸つけをしていると急に先生が話しかけてきた。 「そういえばおまえって俺の電話番号知ってるの?」 「……え、知りません、けど……それがなにか?」  随分急だな、と思ってつい問題を解く手を止めてしまう。    先生は数学が得意だから数字の羅列もすぐに覚えられるのかもしれないけど、俺はすぐに覚えることは不可能だ。  だから例え一度見たことがあったとしても数字をすらすらと言えることはまずありえない。  てか、一回先生から電話がかかってきたことがあったんだから着信履歴を遡ればいいんじゃないの。  なんて思っていると、先生が胸ポケットから小さなメモ紙と高そうなボールペンを取り出し、なにやらスラスラと書いていた。 「はい、これ」 「……これは?」 「俺の携帯の電話番号。俺、仕事とプライベートは分けたいから携帯ふたつ持ってんだよ。前かけたのは仕事用の携帯だったから、それはプライベート用の」  とんとん、と俺が持っているメモ紙を人差し指で叩いた。  仕事とプライベートで分けるなんて変わったひとだなあ、と思いつつ先生ならありえそうだなあ、変わってるもんなあ、とも思う。  なんというか、ただの俺の勘だけど先生はプライベートでも“先生”ではなさそうだ。  恐らく生徒にも、そして俺にも見せていない一面がありそうな気がする。  と言ってもこれは本当に勘だし、普段の先生もこうだったりするんだろうけど。 「もし連絡を頻繁に取るんだったら、LINEの方がいいような気がするんですけど」  ただ、疑問に思ったからそう聞いた。  すると先生の顔は何故だか柔らかい表情に変わっていく。初めて見る表情だ。 「そう思ってくれてんの?」 「……まあ、はい」 「俺だってそうしたいのは山々だけどね。友達と使うツールの中に先生の名前があったら嫌だろ?」    先生にしては真っ当な言葉に、たしかにと納得してしまう。    でもきっとそれは建前で、先生の本音はもしなんらかの出来事が原因で生徒と連絡を取っていることがバレたらやばいことになるから、なのかもしれない。  いや、わからないけど。  でもそれだと、なんのためにプライベート用の携帯があるんだって話になるし……うーん…… 「そんな深いこと考えんなって」  考えている間に黙り込んでしまったらしく、先生に頭をぽんと叩かれてしまった。  叩く、といっても優しく。 「ただ俺は、こう見えて欲しがりだから」 「はい」 「もし俺と個人的なやりとりがしたくなったら追加したいって教えて。それまではメールで」  俺のスマホが振動した。  たった今、先生がプライベート用の携帯で俺の携帯に空メールを送ったからだ。  ……いや、まじでなんで俺のメールアドレス知ってるんだよ。    と呆れていると、先生がふふと静かに笑った。  その声につられるように隣へと視線を向けると、絡み合う。 「俺はできれば直接落としたいからさ」  先生が口元を携帯で隠し、目だけで微笑んだ。 「会いたくてどうしようもないときに連絡寄越せよ。そのときは嫌なことなんて忘れさせるほど甘やかしてやっから」

ともだちにシェアしよう!