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すたすたと歩く先生のあとをついて行き、そのまま校舎の外に出る。
相当暗くなっていて、生徒はほとんどいない。
いるとしても強化部の野球部くらいだ。
さすがに部活だとしてもここまで遅くなることはないから、なんか変な気分になる。
というか、こんな時間まで学校にいたのは初めてかもしれない。
「先生っていつもどれくらい学校にいるんですか?」
「んー、俺は部活動の顧問とかはしてないから6時くらいには帰ってる。遅くても7時とか」
「え、じゃあこんな時間までいたことは」
「ねぇな。仕事が残ってたとしても、俺は持ち帰ってやりたいから」
時計を確認してみると、7時ちょっと過ぎ。
いつも早く帰ってるってことは俺が勉強をやめるまでずっと一緒に残ってくれてたってことか……?
いや、でもさすがに数学準備室とはいえ上限もあるだろうし……
なんてもやもや考えていると、先生が黒塗りの高級車のところで止まった。
え、これが先生の車!?
「ほら、これが俺の車。乗りな」
「え、あ、ありがとうございます」
俺のために遅い時間まで残ってくれていたのがわかって勝手に気恥ずかしい気分になり、助手席の扉を開けてくれた先生の顔をあまり見れずにお礼を言った。
どうしてこんなに大人の余裕が垣間見える瞬間が多いのか俺には全くわからない。
ただひとつわかることがあると言えば、たぶん俺が年齢を重ねて大人になってもここまでの大人にはなれない、気がする。
いや、さすがに校内でのあの先生は俺でもやばいなとは思うけど。
こういうところを見ると、案外普通でまともな大人なのかなとか思ったり思わなかったり。
「あーやべえ、助手席に生徒乗っけるとか背徳感すごいな。なんか興奮してきた」
運転席に乗り込んだ先生がそう言う。
……もしかしたらまともなのかもしれないけど普通ではなかったわ。
先生がシートベルトを締め、車にエンジンをかける。
そうして、横目で俺のことをちらっと確認した。
「煙草臭わない? 一応車内では吸わないようにしてるんだけど」
「全然平気です。なんならちょっといい匂いする」
「よかった」
にこっと笑ってから、先生が車を発進させた。
すごい。高級車だからかどうかわからないけど、なんかすごい。
車内もなんか高級感がするし、発進する時の身体への遠心力みたいなものも一切かからなかった。
「教師ってそんな儲かるんですか?」
「え、いやそうでもねえよ。なんで?」
「だってこの車、どう見たって高級車じゃないですか。教師ってそこまで給料高くないって聞いた気が……」
「あー……」
正門を抜けながら先生が若干渋るような声を出した。
「この車、親父から成人祝いで貰ったんだよ。俺は要らねえって言ったんだけど、いい車くらいには乗っとけって言われて」
「……!?」
「あ、俺の苗字ネットで調べんなよ。親父の名前出てくるから……ってもう調べてんのかよ」
すぐさまスマホを取り出して、麻橋、と打ち込んで調べてみた。
真っ先にヒットして、検索結果をタップする。
すると、某有名高級ファッションブランドを経営する社長が出てきた。その名前を見ただけで俺はなるべく声には出さないようにしたけどめちゃくちゃ驚いた。
麻橋達雄、恐らくこのひとが先生のお父さんだろう。
じゃあ先生は御曹司ってこと?
まじでこのひと何者なの。
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