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驚きでなにも考えられない。
だって御曹司なら普通教師なんてやらなくないか? 出世まっしぐらコースだと思うんだけど。
「先生は継がないんですか?」
「俺には兄貴がいるから。親父も兄貴も俺に継がせたかったらしいけど、俺はどうしても教師になりたくて」
「……」
唖然としてしまう。
よくよく先生の身につけているものを観察してみると、腕時計はとても有名なブランドのものだし、身につけているワイシャツやネクタイやベルトやらも全部高級そうなものに見える。
なんで先生はこんなお洒落なんだろう、とか服に無頓着そうなのにとか思っていたけど、そりゃ親が親だからこうなるよな。
え、やば……
「お、俺先生のお金目当てじゃないですからね」
「え?」
「別に先生からお金巻き上げようとか、色々買ってもらおうとか思ってませんから」
早めに誤解を解いておこう。
もし先生にお金目当てとか思われていたら嫌。
「はは、わかってるよそんなの。そもそもこのことは他の奴に言わねえしな。たまに苗字でバレるけど、社長の息子だとかそんなのちゃんと信用してる奴にしか言わねえよ」
「……はい」
「納得した?」
つまり、先生は俺を信用して今のことを言ったってことだ。
親から車を貰うことを譲り受けたって言い換えれば俺にバレることはなかったし、そもそも社長職じゃなくても稼げる仕事はこの世にはある。
だから嘘をつくことも可能だった、てことになるけど。
「おまえには嘘つきたくなかったんだよ」
「……ただの生徒なのに?」
「俺がおまえのこと信用してるって言ったら、おまえは嫌でも俺のこと意識するだろ。普通にそれが狙い」
「う、性格わっるい」
「おーい、せめて打算的とか言えよ」
たしかに意識するかもしれないけどさ。
楽しそうに話している先生の横顔を、バレない程度に見つめる。
日本人特有の平たい顔ではなく、北米の血でも混じってるのかと言いたくなるほど高い鼻筋。
それだけでも整って見えるのに、口元は綺麗なEラインだから余計整った顔に見える。
それに加えて御曹司……って、なんだか言い方は悪いけど宝の持ち腐れのように思えてしまう。
こんなに見た目がよかったら人前に出る職業なんていくらでもできるだろうし、教師というブラック(?)な職に就かなくてもよかったはずなのに。
……でも、先生には理由があって教師をしているのかもしれないから俺にはなにも言う権利はない。
ないけど、それでももったいないなと思ってしまう。
「おまえさ、今俺がなんで教師になりたいと思ったのかすげえ気になってるだろ」
「……その通りです」
「まあ、普通はそうだよな。……すっげえ簡単に言うなら、約束を果たすため、かな」
「約束……?」
「そ」
右折しながら先生は言った。
男らしい筋が手首に浮かび上がり、意味もなく目を逸らしてしまった。
約束……か。
親との約束とか、友人との約束とかかな……
こんな風に育つんなら、親も結構ラフな感じのひとなのかもしれないし。
けど、それにしては先生は少し暗い空気を纏わせていた、気がする。
「ま、それ以前に高校生の青春を間近で見れるのが一番かな。生徒同士の恋愛とか、聞いててすげえ面白い」
「え、先生の間でもそういう話するんですか?」
「おまえらが思ってる以上にするよ。そうだな……優馬とか、付き合って別れてっての結構繰り返してるだろ」
「あ、当たってる!」
優馬、気をつけないとヤリチンがバレるぞ。
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