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そのまま先生は野菜炒めだけではなくだし巻き卵もすぐに作ってしまった。俺も先生も甘い卵焼きが好きだから、甘めの。
俺も食材をテーブルに運ぶのを手伝ったり、先生が前日作ったという味噌汁を温めているのを待ったりしているとあっという間にテーブルには十分すぎるくらいの量の料理が並んだ。
先生の手際がいいおかげで、俺も退屈しなかった。
手際がいいひとが料理をしているのを見るのは案外楽しい。
テーブルに先生と向かいあわせで座り、手を合わせて「いただきます」と言ってから先生が作った料理に手を伸ばした。
野菜炒めは味見をして味を知っていたから、卵焼きから食べることにした。
卵焼きを口に入れる。
……え、美味しすぎる。ふわふわだし、甘さも丁度いいし、甘すぎないからちゃんとおかずとして成立してる。
すごい。ここまで俺の好みぴったりの卵焼きは初めてかもしれない。
「どう、おいし?」
「……はい、すっごく……」
「はは、おまえ美味しい時とかはすぐ顔に出るんだな。作りがいあるよ」
先生が綺麗な箸とお椀の持ち方をしながら、味噌汁を啜った。
そんなにすぐわかっちゃうくらい顔に出てたのかな、俺。
いや、けどそれくらい先生の料理は美味しい。卵焼きなんて簡単な料理かもしれないけど、それでもびっくりするくらいには美味しい。
いくら俺が細いとはいえ、やっぱり運動部だからそれなりの量は食べれる。それをわかっているのか、先生は白米の量を少し多めに盛ったみたいだ。おかずの量も多めな気がする。
「俺、正直色々感動してます……」
「なんだそれ」
先生は笑うけど、俺は真剣に言ったつもりだった。
とにかく学校と今とのギャップが凄すぎて、それだけでもびっくりなのに今の状況とかを考えてなにも思わないわけがない。
「先生はなにもできない大人だと思ってたから、驚いてます」
「まあそう思うよな。でも結構ちゃんと大人なんだよなあ、俺って」
嬉しそうに目を細めながら、先生はそう言う。
先生とこうやってご飯を食べるっていうのもちょっと変わった光景だ。
クラスのひととか爽介や優馬が知ったら驚くかもしれない。
お茶で喉を潤していると、先生が言う。
「おまえ、一人暮らしなんだろ? 友達と食べるとき以外はひとりで食べて、きっと寂しい思いしてるんだろうなって思ってたから」
「……!」
「だからせめて、大人が作った料理を食べさせてあげたいなって思ってたんだよ。おまえが俺の料理を食べて美味しいって喜んでくれるのは、嬉しい」
本当に心から嬉しそうな顔でそう言っていた
ここで普段のように強がりの言葉のひとつやふたつ言えればいいのに、口からその言葉が出てこない。
……嬉しいと思った。
先生の、俺に対する優しさが。
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