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 なんでそんなことを恥ずかしげもなく、寧ろ嬉しそうに言えるんだろう。その言葉を向けられている俺はこんなに照れくさいのに。 「……先生は、俺を甘やかしすぎです」 「そうか?」 「もっと……叱ってください。そうじゃないと、俺は調子に乗っちゃうから」  俺は誰かに褒められたりされるほど立派な人間じゃない。それどころか欠如ばかりだ。  だから、よくない部分に関しては指摘してほしい。叱ってほしい。   「それでもいいけどよ。叱るのは俺の役割じゃない」 「……え」 「そもそも俺はおまえのことを叱れるくらいの出来の人間じゃねえから。それ以前に、俺はおまえに叱る要素なんてないと思ってる」 「……また俺を優等生って言うんですか」  優等生なんて、そんなの俺ではない。それこそ爽介にぴったりの言葉で、俺なんかには勿体ない言葉だ。だから、優等生という言葉を好んで使わないでほしい。  俺が少しふてくされたような表情を作って先生を見つめると、先生はよくわからない感情で微笑んでいた。 「おまえは、ちゃんと頑張ってるだろ」 「……」 「そんな奴に叱る必要なんてない。俺はおまえの頑張りをちゃんと認めてるから。たまに提出物を一日遅れで出してくるのはちょっとアレだけど」  それは……それは、数学の存在感が希薄すぎて忘れてしまうだけであって……  それよりも、先生が言ってくれた言葉。    俺は、先生が見えるようなところで努力を滲ませた覚えはない。勉強漬けの人間とは思われたくないから、クラスでは一切勉強をしないし、するとしても誰もいない放課後の教室だった。  だから、先生は俺のことなんて知らないと思ってた。  先生が俺の事を大体知っているとでも言いたげな表情が、俺は少し不思議だった。 「そもそも運動部で、しかもバスケ部に入っててよく上位の成績をキープできてるなって思うよ。すげえよおまえ」 「部活を勉強しない言い訳にしたくなかっただけです。いくら疲れてたとしても、夜は時間があるんだし」 「えっらいな。俺がおまえと同じ高二のときなんてそんなに真面目じゃなかったぞ。寧ろほぼ不良だった」 「全然想像できない……何年前ですかそれ」  そうして先生と会話をしながらご飯を食べ、久しぶりに誰かと一緒にご飯の片付けをするのはどこか懐かしい気分になった。  片付けまで終え、帰る準備をしようとすると先生がタッパーをいくつか持って、保冷バッグに入れてくれた。  持ってみると結構ずっしりとした重さがあって、それに加えてレシピ本までくれた。 「え、いいんですかこんなに」 「うん。時短でできる料理ばっかり載ってるから、おまえにぴったりかなって」 「嬉しいです……ありがとうございます」  いつもは全部適当に作っていたから、こういうものがあるとありがたい。  今はインターネットという有能なサービスがあるけれど、それでも俺にとっては重宝すると思う。 「じゃあ先生、今日はあり……」  荷物を両手で持ち、隣に立つ先生にお礼を言おうと思って顔を上げたときだった。  目の前に急に影が落ち、先生がどうしてか俺の前髪をかき分けて隠されている額を露わにした。  そうして、先生の顔は近づいてきて──── 「っ!!」  ちゅ、というリップ音と共にやってきたのは、額に触れる柔らかいもの。  それはどう考えたって先生のくちびるで、俺は驚いて先生を勢いよく見上げた。    けれど思ったよりも先生の顔は俺の顔の近くにあって、息と息が触れて交わってしまうのではないかというくらい、近い。  先生は俺の両手が塞がっているのをいいことに、俺の頬の感触を楽しむようにすりすりと触ってきた。  その部分が、やけに、あつい。 「隙だらけ、」 「……」 「俺が……この俺が、おまえを大人しく帰すとでも思ってる?」

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