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「で、次は優馬なわけだけど……」    答案を取りに行った優馬の後ろ姿を見つめ、先生と話している姿を見る。  優馬の声は大きいから後ろの方の席でも十分聞こえてくるし、先生の声も聞こえる。 「おまえ、あのふたりに勉強教わったほうがいいよ。このままだと留年……」 「嘘でしょ!?」 「なんてことはないって信じてるけど、ありえなくもないからな。頼むぞ〜、俺は全員三年生として送り出したいんだから」  そして答案を受け取った優馬が点数を見るなり表情を一気に変え、負のオーラを漂わせながらこちらにとぼとぼと歩いてきた。  絶望って言葉がぴったりなくらい落ち込んでるな。 「……で、優馬。どうだった?」 「今の俺にかける言葉なんかねえだろうがよ……見ろ。そして嬲れ」 「きもいこと言うな」  俺の机の上に優馬の答案が置かれた。  そして点数を見て……俺も優馬も絶句する。  同時に優馬の顔を見て、同時に優馬の肩に手を置く。 「……大丈夫だ、おまえと学年が変わっても変わらず友達でいてやるから」 「優馬と一緒に進級できないのは残念だけど、そんなので友情は崩れないよ」 「俺が留年する前提の話するのやめろよぉ〜!!」  この後、教室中に大爆笑が湧き上がったのは言うまでもない。 「ま、明日から夏休みに入るわけだけど……って、一学期最後くらいは俺の話聞けよー、俺泣いちゃうから」 「ばっしープリント一枚足りなーい」 「おー配り忘れてたわ。持ってってー」  今日は、夏休み前の最後の登校日。  明日から夏休みというだけあって、クラスメイトのテンションはいつも以上に高い。俺も、テンションが上がらないわけではない。  この学校は三学期制だから、夏休み前で一学期が終わる。だから先生もああいうことを言っているんだろうけど、まるでクラスメイトは聞こうとしない。  けれど全員が全員聞く気がないわけではなく、中にはちゃんと聞こうとしているひともいる。……まあ、主に女子だけど。  先生は部活動の顧問をしているわけではないし、夏休み中に学校に常にいるわけでもないので会えるのは今日だけになるから、その姿を目に焼き付けておこうなんて思っている女子もいるのかもしれない。  とはいえ、だらーんと座ったまま説明するのはどうかと思う。 「じゃー次は夏休み課題の一覧を配布するけど……誰か配ってくんね?」 「はーい! 配るー!」 「おー助かるわ。いつもそれくらい協力的だといいんだけど」  女子たちが一斉に手を挙げてプリントを配るのを手伝い始めた。  俺は爽介と席が前後だから、その様子を苦笑しながら見守る。 「いやーばっしー先生は相変わらずだな。あそこまで怠慢っぷりを見せつけられると一種の尊敬までするよ」 「……だな……」  テスト前のあの日とは大違いだなあ、なんて考える。  あの日先生に教わって以降、部活動でちょっとした怪我をしてしまったりとか俺の自習で忙しかったりとかでふたりで話したりという場面が全くなかった。  たまに先生から全く内容がないクソみたいなメールが送られてきたりはしたけど、テスト前ということもあって先生も暇ではないのか、テスト一週間前はびっくりするくらい平和だった。  嵐の前の静けさだって? 知らん。俺は理系だ、ことわざなんか知らねえよ。  ぼーっと先生の顔を遠くから見つめていると、ぱちっと目が合う。  目が合って……額にキスをされたことを思い出してしまった。    ばっっか、なに思い出してんだ俺!

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