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「ん? 耳赤くない?」 「気のせい」 「えー」  爽介に耳を触られた。別になんとも感じないけど、そこを触られてるってことが問題だ。  熱くなっていることがバレたら困る。  爽介は元からスキンシップが多めな方だから、油断しているとすぐ身体を触ってくる。家で犬を飼っているらしいからそれはしょうがないことかもしれないけど、急にされると驚く。  前の席のひとから渡されたプリントを自分用に1枚取り、爽介に回す。  ざっと目を通し、量を確認する。  これはまた…… 「多いな……」 「ほんとだよ。一ヶ月で終わる量っちゃ量かもしれないけど、部活やってたら厳しくね?」  スマホを取り出し、夏休みの練習予定の日程を確認する。  思っていたよりオフが多いという印象だったけど、合宿もあるしすぐに夏休みは終わってしまうだろう。  配分を間違えたら後半痛い目にあいそうだし、夏休み明けすぐに実力考査があるから後半の二週間はテスト勉強に時間を割きたい。  にしても、数学の課題量が群を抜いて多い。  これを毎日やったとしても終わるのかってくらいには多い。 「せんせー数学の課題多くないー!?」  クラスメイトも同じことを思ったのか、どこからかそんな声が飛んできた。  あんなのでも数学の教師だから、課題の設定にはある程度関わっているだろう。    すると先生は「えー」と言いながらプリントを見て、その言葉を言ったクラスメイトに言い放った。 「確かに俺が決めたけどさー、ここは俺の顔面に免じて許せよ」 「え、先生が決めたの!?」 「最終確認は主任だったけどな。俺は休みだからとはいえ君らには勉学に勤しんでほし……おい誰だニコチン中毒っつったの! 出てこい!!」  ふふんと自信ありげに言った先生に対して不満があったのか、誰か言った「ニコチン中毒のくせに……」という言葉に過剰に反応した。  その言葉にクラスメイトが笑う。  ほんっとあの先生は…… 「すーげえひとだな」 「……ね」 「でも、あんなんでもちゃんとクラスはまとまってるし、問題のひとつも起きてないんだからそこはすごいなって思うな。たぶんあのひとにとって教師って天職なんだろうなあ」  ……少なからず、その言葉に俺も同意する。  普通だったらなめられまくってもおかしくないものの、生徒たちは一応あのひとのことを先生として接している。  敬語すら使ってないものの、それでもちゃんと先生として認めているのは確かだ。  そういう俺も、あのひとのことを教師だってちゃんと認めてるけど。  ……ていうか、あのひとが前に言ってた『約束』って、なんなんだろう。

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