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 早く終わらせてしまおう、という爽介の声掛けの元プール掃除が始まった。  去年の夏休みから丸一年掃除をしていないから、それはそれは大変素晴らしく汚れております。  プールサイド組とプール組に分かれて掃除することになり、俺はプール組になったので水が抜かれたプール内に入る。  少しでも油断したら滑ってしまいそうで、歩くのも慎重に行わなければ。  ブラシで身体を支え、ごっしごっしと汚れを落としていると隣に誰かが立った。先生だ。 「随分優馬と楽しげだったなあ」 「……ははは」 「つーか暑くね? バスケ部毎年これやってるんだな」 「去年はここまで暑くなかったので……先生がわざわざ自分からこういう面倒なことやるなんて、珍しいですね」 「言ってただろ、松木先生が。無理やり連れてこられたんだよ……」  ぶつぶつと小さな声で言っているのは、バスケ部の顧問こと松木先生が近くにいるからだ。  いっそのことでかい声で反芻してバラしてやろうか。  ちら、と先生の服装を確認してみる。  俺と似たような半袖のパーカーを素肌に羽織っていて、その下には紺色の海パンと思われるものを履いている。  どうにも偶然学校に持ってきたものとは思えないし、なんなら泳ぐつもりで来たとしか思えない。  さては、無理やり連れてこられたってのは嘘だな。 「本当の理由は?」 「……」  バレてたか、とばかりに先生は苦笑し、俺と同じようにブラシを動かしながら言う。 「監視、と、興味かな」 「え?」 「監視7割、興味3割」  先生の顔を見て、それ以上言うつもりがないことを悟った。恐らくまた質問したとしても、先生は同じことしか言わない。  理由は詳しく説明できない。ただ、なんとなくそう思っただけ。  監視ってどういうこと? 先生の興味の対象はプール掃除というイベント? 部員? それとも……俺、だったりして。  あの先生をここまで行動させるなんて余程のことかもしれない。先生は暑がりだ。涼みが全くない暑すぎるこの場所に好んで来るわけがない。 「ま、深く考えんなよ。おまえはいつも通りでいいよ」 「そう言われると余計気にしちゃうんですけど……」 「人間なんてそんなもんだよな」  はは、と憎らしいくらい爽やかに先生が笑った。なんだか見ていられなくて、俺はつい目を逸らしてしまう。  先生は俺に、先生のことを知りたいなら知っていけばいいと言った。  知りたくないわけではない。寧ろ知りたいし、先生に“狙われている”以上は先生のことを知る努力はするししているつもりだ。  けれど、なんだか今は先生のことを知りたくない。  知ってしまったら、這い上がれない闇まで落ちてしまいそうで、もう戻れなくなってしまいそうで。    ていうか、あんだけ俺に言っといて自分のことは隠そうとしているなんてちょっと腹立ってきた。  あっ、沸点が急降下していく。   「……先生って、ずるいですよね」 「え?」 「俺のこと知ったかぶりな態度取ってるくせに、俺にはなにも教えてくれない」 「……教えてあげられるけど」 「だから、そういうとこです! ばーか!」  このイケメン野郎! と言わないだけ偉い。

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