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「ごめんごめん、ちょっと意地悪しすぎた」  俺がなにも言わないで黙りきっているから、先生は少し心配した顔で俺の頭をぽんと撫でた。  別に、意地悪されたなんて思ってはない。  先生を見上げるように顔を上げようとすると、先生の向こう側にある太陽の陽射しが眩しすぎて目を細めてしまった。  そのついでに、先生の姿も揺れる。 「いつでも、どんなときでもなにを訊いてもいいよ」 「……答えてくれるんですか」 「時と場合によって」 「答える気ないですよねそれって」  そりゃあひとには隠したいことや秘密にしたいことのひとつやふたつは絶対にあるだろうから、なんでもかんでも答えてくれるわけではないことを知っていた。  わかっていたけど、それでも答えてくれないっていうのはなんとなく嫌な気分になる。  ……いや、先生はある程度俺が質問したいことを予想しているから、予防線を張ったのかもしれない。  俺がその線の近くに立つことはきっと許されないし、超えようとしたら痛い棘を出されてしまう。  先生はどうして、どうして。 「……答える気はあるよ。でもきっと、俺がおまえの質問に答えたとして、それがおまえの傷つく答えになるかもしれない」 「……わからないじゃないですか、そんなの」 「わかるよ」  先生が、今までとは違って強い響きを持つ声で言った。  有無を言わさないような、否定させないような。 「わかる」  そしてもう一度、念押しするかのようにそう言った。そんなことを言われてしまったら、もう俺は否定的なことを言えるはずがない。  俺は別に、傷ついたっていい。  傷つくのは慣れている。  傷ついたとして、俺を慰める方法なんてこのせかいにはどこにもない。  それを口に出したはずはないのに、先生は俺の心を読み取ったかのように次の言葉を綴る。 「俺は、俺の言葉でおまえに傷ついてほしくない。ほかのなにかでおまえが傷ついたときは、俺が治してやりたいと思ってる」 「どうして?」 「……」  そう思ったから、そう言った。  あまり先生の深いところは知りたくないけれど、きっと知らないと俺自身は満足することができない。その、逆も然り。  俺は、俺のことを先生に知ってほしいのかもしれない。 「それが俺の役目だから」    ……これは、単なる俺の予想でしかないけど、きっと今の言葉は教師としてではない。きっと、麻橋柊羽という人間として言っているのだと思う。  だって先生は、教師として俺に言葉を贈ったことはない。ましてや、こんな場面で。 「いつか俺の言う意味がわかるよ。いや、わからせる」 「……」 「今はただ、まだ早いだけ」  そうして先生は、俺の耳を塞ぐかのように右耳に触れてきた。  「赤いぞ」と先生が言う。  そんなの、今まで見たこともないような真剣な表情で言う先生が悪い。  

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