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そこからは特に話す内容もなく、黙々と作業をした。先生も先生で人気だから部員と話しているし、俺も俺で同級生と話しながら作業をする。
そうしてしばらく掃除をしていると、最初の汚いプールとは見違えるほどに綺麗になった。
部員全員がプールから出て、プールサイドに立つ。
これからはプールに入るために水を入れるからそれまでは暇な時間になる。
プールサイドに貼られたテントの下の影で部員みんなで涼んでいると、先生と顧問が大きいクーラーボックスをひとつずつ持ってきた。
部員たちがクーラーボックスの周りに集まると、クーラーボックスの中にはジュースとぎちぎちに詰められた氷が入っていて、もうひとつのクーラーボックスにはアイスが入っている。
しかも、部員の人数分。
「おまえら感謝しろよ、この俺がわざわざ大金はたいて買ったんだから……」
「これ全部麻橋先生のお金ですもんね」
「はい……」
え、これ全部!?
先生もこういうことするんだな……
クーラーボックスに入っている清涼飲料水のペットボトルを手に取り、キャップを開けると炭酸特有のシュカッという音がした。
ごくごくと飲むと、火照った身体に刺激のある炭酸飲料が身体に入っていく感覚が心地よい。
ぷはー、と思い切り息を吐くと隣に先生が立った。
「うわっ、びっくりした」
「どう、俺の心粋のある気遣いは」
「先生らしくないなって思いました」
「そこがいいんだろ」
やや吐き捨てるようにそう言って、俺が口をつけたばかりの炭酸飲料をごくごくと飲んでいた。
……あ、間接キス。
先生がやや上を向くことによって綺麗な輪郭の骨が浮かび上がって、喉仏が先生が飲む度に上下する。
夕方の橙色の光が先生の顔に当たり、やけにその様子が綺麗に見えた。まるで映画のワンシーンのようだ。
俺の視界に写すには、あまりにも被写体が良すぎる。瞬きをする度に揺れる長い睫毛から、どうしてか目が離せなかった。
……ああくそ、見とれてしまうくらい格好いいな。
「うっまー、買ってよかったわ」
ペットボトルから口を離し、そのペットボトルをそのまま俺に渡してきた。それを受け取ると、先生が俺を見つめて微笑む。
……あ。茶色い。
夕陽に照らされている先生の瞳が、元々茶色いのにオレンジ色が混ざって綺麗な淡褐色になっていた。
「ん、どうした?」
「……先生の目が、茶色いなって思って」
「ああ、これな。小さい頃から茶色いんだよな」
先生の小さい頃……
きっと今の先生をぐっと幼くした顔のまんま子どもなんだろうなあ、と当たり前のことを想像して、ぷっと笑いそうになる。
先生は小さいとき、どんな子どもだったんだろう。
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