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「……俺さー、あのふたりなんか怪しいなーって思うんだよね」
「なに、怪しいって」
部活で毎年行っている恒例のプール掃除。
普段は部員くらいしかいないものの、今年はどうやら麻橋先生まで参加しているらしい。
顧問によれば無理やり連れてきたらしいけど、どうもそうは思えない。
……というのも、ただの勘に過ぎないけれど。
「そう思わねえの? 教師と生徒であの距離感、なんかおかしいなって感じ」
そう言いながら優馬が麻橋先生と律のことを控えめに指さす。
その方向を見てみると、律が先生の腹筋をぺたぺたと触っている様子が観られる。
傍から見ればただの仲がいい教師と生徒。ただ、優馬が違和感を感じるのはしょうがないことなのかもしれないなとは思った。
あの先生は、ああやってひとりの生徒に固執するようなことは絶対にしない。
なんでそれがわかるかと言うと、去年俺と先生はちょっとだけ交流があった。交流、と言っても2、3回話した程度。
そのときから先生は怠慢教師と呼ばれていたから、俺は何気なく質問をしたことがあった。
「先生、そんなにイケメンなんだから女子生徒からモテるんじゃないですか」と。
先生は本当に格好いい。どうやら他の生徒は先生のことを残念イケメンと称しているらしいけど、俺は残念だとは思わない。
残念という言葉をつけるのが申し訳ないほど、先生がイケメンすぎるから。
だから俺は、本当にただコミュニケーションを取るかのように質問をした。
そのとき先生は、間違いなく「俺は生徒に肩入れしないって決めてるから」と言った。はっきりと覚えている。
だからこそ、あんなに律と親しげにしているのが不思議でしょうがない。
────それと俺、先生のことどっかで見たことあるような気がするんだけどどこだっけな……
うーんうーんと考えていると、優馬がなにも言わない俺に痺れを切らしたのか「おい」と言いながら俺の肩をぱしんと叩いてきた。
「いった」
「おまえが黙るからだろー。ったく……」
「悪い悪い。で、なんだ?」
「要するに俺が言いたいのは、律があそこまで心を許してるのが意味わからないってこと」
「……ああ」
成程。それはちょっと共感できる。
律は高校生になって途端にひととの交流を取りたがらなくなった。あと、普段から感情表現が豊かな方ではなかったとはいえ驚く程感情を顔に出さなくなった。
優馬に対しても、今は素でいられるんだろうけど去年はそこそこ壁を作っていた気がする。
優馬からしたら、自分は律と仲良くなるのに時間がかかったのにどうして先生はすぐに律と仲良くなってしまうんだ、と思うのだろう。
優馬は本当に律のことが好きなんだな、と微笑ましくなって笑ってしまう。
「笑うなって」
「いや、友達思いなんだなって。そうだな……先生は、律のことをよく理 解 っているんじゃないかな」
「……? そんなの言ったら、俺たちだって」
「うん。でも、先生は俺たちより律を知ってる。そんな気がする」
これは、事実に近い推測だ。
ただ、こう仮定するしかあの距離感を説明する方法はない。
律は無自覚なのかもしれないけれど、俺からしたら律は先生にめちゃくちゃ懐いてますって言っているようにしか見えない。
しっぽ振って飼い主の周りをぴょんぴょん飛び跳ねるトイプードルみたいに。
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