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じっとあのふたりを見つめていると、律がなにかを言って先生が笑う。笑う先生を見て律が少し不満げな顔をして、先生が律の頭をぽんぽんと撫でて律がその手を払っている。
仲良いなあ、ほんとに。
そう言っても律は否定するんだろうけど。
「……あと、俺すっげえ気になってることあって、本人には訊けてないんだけどさ」
「うん」
優馬が俺の方に近づいてきたから、俺も優馬のほうに身体を傾ける。
「律って、童貞?」
「っく、」
真剣な顔で言うからなにかと思えば、そんなことか。もっと重大なことかと思ったんだけど。
「おーいー、どうなんだよ。すげえ気になってんだよ」
「だったら律に直接訊けばいいだろ」
「それができないから爽介に訊いてるんだって〜。童貞でも童貞じゃなくても驚きだけど」
まあ、だろうな。
「童貞だよ」
「あ、そうなのか……」
「ふ、なんだその顔」
安心と驚きが混じったような、そんな顔。
恐らく、経験はあるようには見えるけど童貞であってほしいと思ってたんだろうな。
驚いているのは、童貞じゃないことへの期待もあったからなんだろうけど。
「あと、付き合ったこともないはず」
「マジで!?」
「マジ。中学のときとか、学年で1番可愛いって言われてた女子から告白されても断ってた」
「おい、嘘だろ」
「あと、回数で言ったら優馬より告白されてるんじゃね?」
「勘弁してくれよ」
優馬はほぼ誰とでも付き合うから告白される回数自体は律よりも少ない気がする。
律は下級生や上級生から人気だから何度も告白されたと言う話を律本人から聞いた。
けど、どんな美人から告白されても絶対にオーケーしないのだ。
なんでだろう、折角だし付き合えばいいのにとは何度も思った。
そんな律が高二になって初めて好きなひとができたって言うからどんな子かと思えば、所謂股が緩いと言われている子で、女の子を見る目がないのかなあ、なんて思ったり。
「なに、好きな子もできたことねえの?」
「いや、ある。優馬に言っていいのかわかんないけど……望月さんのこと好きになったんだって」
俺がその名前を出すと、優馬はかなりびっくりしたのか「え?」と声を出していた。
「……で、どうなったの?」
「どうやらその子が俺じゃない立花を好きになったって教室で騒いでいるのを聞いて、ショックを受けたらしいんだ」
あのときの律のびっくりした顔が可愛かったなあなんて思い出しながら話す。
優馬も穏やかな顔をしていると思っていたけれど、驚いた顔のまま疑問を浮かべている表情になっていた。
「え、おかしくね? それ」
「……なんで?」
特におかしいところはなかったはず、なんて思う。
しかし優馬は俺が訊き返したことが不思議だったのか表情は変えない。
「そんなこと言ってたの、俺聞いたことねえよ」
「優馬だってずっと律と一緒にいるわけじゃないだろ? 俺と優馬がいない間にそう言ってるのを聞いたんじゃないのか」
自分でも真っ当なことを言ったつもりだった。どこか、優馬を宥めるように。俺の中にある歯車の少しの軋みを誤魔化すように。
「それ、どれくらい前」
「一ヶ月ちょっとくらい前」
「……」
優馬は黙り込み、考えるポーズをしながらなにかを考えているようだった。
不気味に、ばくばくと心臓が鳴るスピードが速くなっていく。
「おかしいよ、やっぱり」
「だから、なんで」
「俺、望月さんの友達と割と仲良いんだけど、望月さん、彼氏できて既に三ヶ月経ってるって聞いたぜ」
「え」
「これでも、おかしくないって言えんの?」
「……!」
……俺は時々、律のことがわからなくなる。
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