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顔がいいと言われて悪い気分はしない。嬉しいかと聞かれれば嬉しいと答えるかもしれない。
その言葉に穢い下心が隠れていないならば。
「あっ、わたしは冷たいなんて思ってないですからね!」
俺が黙ってしまったからか、慌てて梨奈ちゃんがそう言ってきた。すぐに黙ってしまうのは俺の悪い癖だ、気をつけないと。
「わかってる。なんか、俺からは尻尾がついてるように見える」
「……尻尾……?」
「うん。犬みたい」
特に、俺を見つけたときの顔。
飼い主に名前を呼ばれて駆け寄ってくる前のポメラニアンのようなつぶらな瞳をしているように見えるから、犬みたいだなあと思っていた。
俺にそう言われた梨奈ちゃんは、嬉しいのか恥ずかしいのか感情が読み取れない表情で「えっへっへ」と言っていた。
なんか、キラキラしてるなあ……
「そんなことないですよお。あれですかね、わたしの家で犬飼ってるからそう思われたのかも」
「……もしかしてポメラニアン?」
「正解です! すごい!」
飼い主に似るなんて言葉をよく聞くけれど、この場合飼い犬に似る、という言葉の方がしっくりくるかもしれない。
微笑みながら梨奈ちゃんの顔を見ていると、何故か梨奈ちゃんが顔を赤くして急に慌て始めた。
「だ、ダメです先輩。かっこよすぎます」
「は?」
「あの、先輩の微笑んだ顔ってすごく破壊力あるんです、やばいんですよ。なので、わたしなんかに向けるのは勿体ないですかっこいい」
「……は、」
ただ表情を変えただけなのにそんな風に思うなんて、変わってる子だ。
そう思って滅多に女子の前では笑わないのに笑ってしまい、更に梨奈ちゃんの顔が赤くなっていく。
それ程俺が笑うのはレアだということなんだろう、自分でも可笑しくなってくる。
「変なの」
「変じゃないですよ〜!! 先輩はもっと自分の魅力に気づいてください」
「わかった」
そうやって素直に褒められるのは悪い気分ではない。梨奈ちゃんが悪い子ではないと思っているから尚更。
くいっとオレンジジュースを飲むと、さっき飲んだときよりも甘く感じた。
「そういえば」
ふと、思い出したことがあった。
俺と梨奈ちゃんが挨拶をするようになったきっかけの日の出来事を。
「梨奈ちゃん、俺にお礼を言うためにこの高校に入ったって言ってたよね」
「はい、そうですけど……」
「すごい失礼なことを言うかもしれないけど、それって恋愛感情は含まれてる?」
実はそれがかなり気になっていた。
いくら俺に会うためという理由があっても、それだけが勉強の原動力になるかと言われれば首を縦に振れない。
恋愛がひとを動かす力は大きい。
もしかしたら、と思ってそう言った。恋愛感情が含まれていても叶えてあげることはできないけど向けられることは構いはしない。
ただ、気になっただけ。
梨奈ちゃんは少し考える素振りをして、口を開こうとしたかと思えば一回閉じて、また頭を悩ませているようだった。
悪いことをしたな、と思っていると梨奈ちゃんが口を開く。
「それが、自分でもわからないんです」
「え」
「だから一緒に考えてみてくれませんか」
真剣な顔でそう言われて、断れるはずはなかった。
なにも言わずに俺が頷くと梨奈ちゃんが話し始める。
「確かにわたしは、先輩に会いたくてこの高校に入りました。いざ先輩を見つけて、すっごく嬉しい気持ちになったんです。やっと会えたって」
「うん」
「わたしも思いました、先輩のこと好きなのかなって。でも、そう言うには確証があまりなくて……」
「じゃあ」
俺がその手伝いをしよう。
「俺とエッチしたいと思う?」
「……へ、へぇっ!?!?」
あ、やっちまったか、これ。
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