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 俺の肩を掴んでいる手をぐっと掴むと、ひーひーと言いながら慌てて引っこ抜こうとしたので仕方なく力を緩めることにした。   「う……さすがバスケ部、手の力強いですね」 「どーも」 「ひゃー、なんですかその大人の余裕がある笑みは、意味わからないかっこよすぎます」 「……?」  ううん、俺にはこの子のことがよくわからないな。  その後は特に他愛のない話をし、俺はあまり面白いことを言ったりだとかしなかったけれど梨奈ちゃんはとても嬉しそうにずっとにこにこと俺と会話をしてくれていた。  そんな彼女の恋愛が実ってほしいと俺は思う。  本格的に日が暮れる前に別れることになり、ベンチから立ち上がって俺は最後に梨奈ちゃんに後押しをすることにした。 「まともなアドバイスとかできないかもしれないけど、応援してる」 「ありがとうございます……! あ、あの……」  バッグからスマホを取り出した梨奈ちゃんが、控えめに俺のことを上目遣いしながら言った。 「迷惑じゃなければ、連絡先交換しませんか……」 「……!」 「わたしっ、律さんにしか言ってなくて……それでその、相談とか報告とか色々できればなって思って」  ダメですか、と小声で聞かれた。  別にダメなんて言ってないのにな、と思ってくすっと笑ってしまった。 「いいよ、交換しよ」 「ありがとうございますぅ……!」 「はい、どうぞ」  QRコードを表示し、梨奈ちゃんに読み取らせる。  すると、よくわからないキャラクターのスタンプが送られてきた。  アイコンに梨奈ちゃんと一緒に写っているこの子が梨奈ちゃんが言っていた好きな子なんだろう。  本当に可愛らしいな、と思う。 「俺じゃ頼りないかもしれないけど、いつでも相談していいから」 「う、嬉しいです……あ、わたしお迎え来てるので行きますね! いい夏休みをー!」  感極まった顔をしながら走り出し、俺に手を振りながら駐車場へと向かっていった。  俺も控えめに手を振り返し、ふうと息を吐く。  なんだか中学生に戻ったような気分になった。今はもうほとんど女子とは話さないから新鮮だったな。  俺も帰ろう、と思って駐輪場に向かって歩き出す。  ……すると。 「お、今帰り?」 「っわ」  後ろから急に声をかけられたかと思えば、麻橋先生だった。相変わらずスーツを着崩していて、髪はいつもよりふわふわして見える。  ついさっきまで梨奈ちゃんとそういう話をしていたから、今先生とはなるべく会いたくなかったのに。 「まだいたんですね」 「まあな。それよりおまえ、今大塚梨奈と喋ってた?」 「はい、喋ってましたけど……」 「ふぅん」  普段ならニヤニヤして俺のことをからかってくるだろうに、何故か今は口元に手を当てて梨奈ちゃんが走っていった方を見つめていた。  その顔に揶揄は含まれておらず、真剣な表情だ。  あー、梨奈ちゃんと話したから変な気分になってるかも。ちょっと居心地悪い。  早く先生がなにか言わないかなあ、なんて思って俺より背が高い先生を見上げると、今度は俺のことを見つめていた。  その瞳に、どうしてかドキっとした。 「妬けるな」 「……えっ」 「はは」  明らかに俺に聞こえる声量で言っていたのに、誤魔化された。  普段の飄々とした顔で、なにを考えているのかわからない顔。だけど、先生が妬けるななんて言ったから嫉妬の感情が隠れているようにも見えてしまう。  言葉ひとつで、こんな。 「じゃーなー、いい夏休みにするんだぞ」 「あ、はい、さようなら」 「……ああ、言い忘れてた」    先生が去っていくかと思ったら急に俺の腰を抱き寄せてぐっと近づき、先生と俺の顔が触れてしまうくらいに近くなる。  思わず息を止めて先生の顔を見つめる。 「寂しくなったらいつでも電話していいよ」 「な、っ」 「待ってる」  俺の頭を撫でて、控えめに微笑んでから俺に背を向けて駐車場へと向かっていってしまった。  その後ろ姿をただ呆然と立ち尽くして見つめ、先生が撫でた俺の頭をすっと触ってみる。  まだ、先生の手のひらの感触が残ってる。  (余韻を残すなんて、狡いおとな……)

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