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「ありがとうございましたー」
「ありがとうございました!」
夏休みに入り、一週間ちょっと。動くだけで汗が湧き出てくる暑さ。
あれからは部活の日々が続いており、夏休みとは言えどほぼ毎日部活のために学校に来ている。
今のところ充実した夏休みかと聞かれたらイエスとは言えないけれど、それなりに楽しく過ごしている。
練習が終わり、汗の染みた練習着から着替える。さすがにずっと汗が染みた服は着られない。
プールに入っている間に洗濯機で服を洗濯し、しっかりと汗を洗い流してから乾燥まで終えている服を取り出して荷物に詰める。
ここまでが大体の流れで、普段は練習後に爽介と優馬と三人で一緒に帰ってどこかに寄ったり、それぞれ家に帰ったりしているのだけれど。
「あれ、律帰らねーの?」
「ちょっと校内に忘れ物。それ取ってから帰るから先帰ってて」
あろうことか教室に夏休み課題を置き忘れてしまったのを昨日の夜思い出した。一応校内は解放されてはいるから教室に入れる。これで校内に入れなかったらとんでもない事態になっていた。
こんなに暑い中ふたりを待たせるわけにもいかないので先に帰ってもらうことにした。
いくら今が薄着だとしても、紫外線やらなんやらでかなり暑い。
早く課題を取って俺も帰ろう。
そう思ってふたりと別れようとすると、爽介と優馬は俺のことを心配そうに見てから駆け寄ってきた。
「今日、夜の天気大荒れするとか言ってたけど……」
「俺ん家泊まりにきたら」
優馬がかなり気を使った様子で俺にそう言った。
正直、今日の朝は急いで準備をしたから天気予報を見ることはできなかった。そう言われて、俺は喉をひゅっと鳴らせてしまう。
けど、無理に心配をかけたくない。
「大丈夫、もしなにかあったら連絡するから」
「……ほんとか?」
「絶対しろよ、俺は迷惑なんて思わないからな」
何度も念を押され、ふたりは帰っていった。
そうか、今日は夜の天気が悪いのか……
そういえば、何日か前に見たニュース番組でどこかの地方でゲリラ豪雨が発生したとか言ってた。
今日は昨日よりは暑さは和らいだもののたしかに空を見てみれば遠くの方の雲が厚いような気がする。
まずいな……
はあ、とため息を吐いてから校舎内に入る。
天気が悪くなるかもしれないという話を聞いて、少し怖くなった。ひとりで校舎内を歩くだけで少し背筋が凍る。暗いわけでも変な気配を感じるわけでもないのに。
早足で階段を駆け上がり、急いで自分の教室の机からノートを取ってバッグの中に入れる。
そのままの勢いで教室から出て行き、その途中で数学準備室の前を通り過ぎた。
一旦は通り過ぎてみたものの、なんとなく気になって戻ってしまった。数学準備室の扉の前に立つ。
鍵がかかっている気配はしないし、無駄かもしれないけど一応ドアを開けてみよう、一応。先生がいるかどうか確認するだけ。
なるべく音を立てないようにドアを開けると、すぐに気づかれてしまったようで「ん?」という声が聞こえた。
ドアから顔を覗かせると、そこには椅子に座る麻橋先生────と、もうひとりの若い男の先生が。
他の先生がいるのに、麻橋先生を見ただけで少しドキっとしてしまった。一週間くらい顔を合わせていなかっただけなのに。
なんだ、これ。
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