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「お、久しぶりだな」 「……こんにちわ……」  勝手に開けておいて退出するのも変な話なので、中に入って挨拶をした。  相変わらず先生はワイシャツを緩く着ている。  すると、椅子ではなく先生の目の前に机に座っている先生と目が合った。  あ、このひとは確か副担任で化学担当の。 「近藤先生」 「よく名前覚えてるね。ちゃんと話すのは初めてかな?」  俺のクラスの副担任の、近藤将希(まさき)先生。  近藤先生もかなりのイケメンで、確か麻橋先生と同い年だと聞いた。けど、大学は浪人したから教師歴は麻橋先生よりも一年短いとも聞いた。  麻橋先生とは違い、どこかふわふわした感じの犬系のイケメン。パーマがかかっているような茶色いくせっ毛のある髪の毛で、でも顔がとてもかっこいいからぼさぼさには見えない。    垂れ目が特徴的で、どこかおっとりしている雰囲気もある。生徒からも人気。  麻橋先生とこうやってふたりで話しているのは初めて見たかもしれない。仲良いのかな。 「すみません、俺邪魔でしたか」 「いや、そんなことないよ。柊羽先生に会いに来たの?」 「……えっと……」    麻橋先生のことをちらっと見てみる。  ニヤついた顔で俺のことを見つめていたから、そうですと素直には言えなかった。 「ただの気まぐれです」 「嘘つけ、絶対俺に会いに来ただろ」 「違いますっ」 「まあまあ、座りなよ律くん」  近藤先生ににこっとした笑顔でちょいちょいと手招きをされた。その通りに近づき、俺が前に先生とこの部屋で勉強したときと同じ位置に座る。  すると、近藤先生も俺と同じように机を挟んで俺の目の前に座り、麻橋先生だけが大きめの机にひとりで座っていた。  近藤先生はにっこにっこと俺のことを見つめていて、なんだか居心地が悪くなる。 「えっと、なにか……?」 「んー、なんにも?」 「……はあ」 「将希先生、あまり手は出さないでもらえますかね」 「はは、嫌だなあ柊羽先生。生徒と仲良くなりたいと思うのは当然のことじゃないですか」  ……火花が散ってるように見える……  というか、下の名前で呼び合うなんて相当仲良いんだろうな。  若い先生は多いけれど、同い年っていうのが珍しいからかもしれない。あ、そういえばクラスのひとが麻橋先生と近藤先生は仲がいいって言ってたっけ。  ふたりとも種類は違えどイケメンだなあ、と思う。 「てか、おまえその格好部活終わりだろ。飯食った?」 「まだですけど……」 「もう1時だぞ」  そう言われて部屋の壁に飾られている時計を見てみる。すると確かに時計の秒針は1時を過ぎていて、だからこんなにお腹が空くのかと納得した。  どうしよう、なにも持ってきてないしすぐに帰るのもちょっとおかしいよな。  そう思っていると、近藤先生かぽんと手を叩いた。 「そうだ、丁度美味しいお弁当屋さんのお弁当が職員室にみっつあるんだった。持ってこようか?」 「え、いいんですか」 「いいよいいよ。誰も食べないと破棄することになるし。持ってくるねー」  るんるーんと効果音がつきそうなくらい軽い足取りで数学準備室から近藤先生が出ていった。  ぱたんと扉が閉まってから、麻橋先生が椅子から立ち上がって俺の隣に座った。  かなり近くに座ってきたから、身体の半身がぴったりと先生と密着した。それに先生は背もたれに腕を伸ばして乗せているから俺の肩を抱き寄せているような格好になる。  こんなに近いのは久しぶりで少し緊張する。 「はー、今日たまたまここにいてよかったわ……そうじゃなきゃ会えなかったもんな」 「たまたま、なんですか」 「うん。ラッキー」  本当に嬉しそうな横顔をしていたから、俺はなにも言うことがなかった。  俺と会うだけでそんな顔になるなんて。むず痒い。

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