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シャワーを浴びているからよかったけど、もし浴びてなかったら絶対に汗臭かったはず。
そんな汗の臭いを嗅がれるなんて絶対嫌。
「お待たせー。ついでにお茶のペットボトルも持ってきたよ」
がちゃりとドアが開く音と共に、やや大きめのビニール袋を手に近藤先生が戻ってきた。
何故か隣に座る麻橋先生がはあとため息をついた。気がする。
気づいたら先程までの距離はどこへやら、適切な距離となって体温は感じられなくなった。
いや、名残惜しいとか考えてないけど。
「もっと遅く来いよ」
「なに言ってるんだか。律くんだってお腹空いてますもんね?」
「……は、はい」
麻橋先生口悪くないですか。
つい近藤先生のことを縋るように見てしまった。
そんな俺を見て近藤先生は優しく苦笑する。
「律くんびっくりしてますよ? 柊羽センセ」
「……はは、つい」
「や、大丈夫です」
なにに対しての大丈夫なのか自分でもわからなくなってきた。
近藤先生が俺の向かい側に座り、美味しそうなお弁当を俺と麻橋先生の前に置いた。ペットボトルのお茶も。
あ……かなりお腹空いてきたかも……
「食べましょうか」
「いただきます」
ちゃんと手を合わせてから透明なプラスチックの蓋を開け、割り箸を縦に割ってからまずはトンカツを食べる。
さくさくではないとは言え、コンビニ弁当に比べたら断然美味しい。ながらくコンビニ弁当なんて食べてないけど。
ちら、と横めで麻橋先生のことを見てみると、大して美味しいとも思ってなさそうな顔でおかずを口に運んでいた。
先生の家でご飯を食べたときも思ったけど、このひと食べ方すごい綺麗なんだよな。
箸の持ち方とか、咀嚼とか。
横にいるのに食べ物を食べている音が一切しない。それくらい先生の行儀がいいということなんだろう。
「律くん、夏休みの課題は進んでる?」
近藤先生が気を遣ってくれたのか、俺に話しかけてきた。丁度ご飯を飲み込んだタイミングだったので、その問いに答える。
「実はそこまで進んでないです。部活から帰るとすぐ寝ちゃって、気づいたら夜なので」
「へえ、なんか意外。もうすぐ終わりますって言うのかと思った」
「課題の量多いですからね。どの教科もすぐ終わるような量じゃない」
いや、麻橋先生そう言ってるけど数学が一番多いから。先生お手製のプリントとか、そんな気遣いいらない。
「……生徒から苦情受けましたよ。数学の課題多すぎって」
「そりゃあすぐ終わる量にするわけないですよ。俺をなんだと思ってるんだか」
「ここでサディスト要素出す必要あります? ねえ? 律くん」
「必要ないですね」
「おい」
近藤先生優しい。ファンになりそう。
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