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5-10
どうやら雷は高校の付近に落ちているらしく、そのせいで停電して部屋の電気が切れてしまった。
もう一度雷の音がして、先生が俺を抱きしめる力がより一層強くなった。
身体が勝手に震えて、涙が出そうになるのをなんとか我慢する。
先生が見ている前で泣くことなんてできない。雷くらいで泣くなんてみっともない。
こんなに怖がっている姿を見られているんだから、既にめちゃくちゃださいけど。
「大丈夫、俺がいるよ」
「……っ」
「大丈夫、大丈夫……」
頭を撫でられ、背中は赤ちゃんを宥めるように一定のリズムでぽんぽんと叩かれている。
小さい子にするような扱いでも、それだけでとても安心することができた。
人の体温を全身で感じて、耳も塞がれているから雷の音もあまり聞こえてこない。
ただ完全に遮ることはできず、雷の音が聞こえる度にびくんと身体が反応してしまった。つい、我慢できずに先生の背中をぎゅうっと掴んでしまった。
それでも先生はなにも言わず、時々俺に声を掛けながら抱きしめてくれている。
(あったかい)
雷が落ちる頻度が少しずつ減っていき、まだ近くで落ちているものの音が小さくなってきた頃、ズボンのポケットに入れている俺のスマホが震えた。
取ろうとしても手が震えて取ることができずにいると、先生が代わりに取ってくれた。
「んっ……」
そのとき、先生の手が足の付け根に触れ、つい変な声を出してしまった。
出した直後、羞恥で顔に熱が集まった。
けれど先生はそこまで気にしていないらしく、スマホの画面を俺に見せてくれた。
「優馬だって。おまえ出れる?」
「む、むり……」
「じゃあ俺出るよ」
こんな状態ではまともに声も出せない。
俺の代わりに先生が「もしもし」と言うと、スマホから声が聞こえてきた。
『もしもし!? 律大丈夫か!?』
「……」
『律ー!?』
こっちが拍子抜けしてしまうくらい慌てた様子の優馬の声がした。
つい、ぷっと笑ってしまう。
それは先生も同じのようで、僅かに微笑んでから俺にも聞こえるようにスピーカーをオンにしてから話し始めた。
「俺だよ、俺」
『いや、誰……ってばっしー!?』
「うるせえ。悪かったなー俺で」
不審そうな声を出していた癖に、先生だとわかった途端明るい声でそう言っていた。
先生大好きなのは変わらないようで。
……あ。先生が先生になった。
少し明るいトーンで、抑揚もあってちょっと砕けた口調の。
『ばっしーが律の電話に出るってことは、ばっしーが律の近くにいるってことですか? 律、無事ですか?』
「無事ではねえな。ちょっと怖がってる」
『あーですよねー……やっぱり無理やり連れて帰ればよかったー』
優馬の言葉に、先生がぴくっと反応した。
「なに、やっぱりこいつ雷苦手なの?」
『そうらしいんですよ。結構前に雷が落ちたときも、俺と爽介ふたりがかりで相手してました』
「ふぅん……」
ゴロゴロと音が鳴りそうになったとき、先生は俺を抱き寄せて俺の頭を撫でた。
そうして俺の耳を少しだけ塞ぎ、少しでも雷の音を緩和できるようにしてくれた。
先生の優しい気遣いに、心がじんわりと温まる。
息を吸い込むと、相変わらず爽やかな先生の匂いがした。
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