『てか、律、傍にいるんですよね？　喋らせてくださいよ』 「駄目だ。まともに喋れねえ状態で喋らせるわけにもいかねえよ。明日にでも話せ」 『明日は部活休みですぅー』 「知らねえよそんなの」 　随分と親しげに先生と優馬は話している。 　その会話に耳を傾けつつも、少しだけ顔を見上げて先生の顔を見る。 　表情は穏やかで、変わらず俺の頭を撫でたまま。 　それなのに口調は少しだけ乱暴で、いつものあの先生と変わらない。 　不思議な光景だなあ、なんて思っていると途端に先生が甘く微笑んで、頭を撫でていたのを後頭部に移動させて抱き寄せ、ぴったりと身体が密着した。 　うわ、うわ。 　あまりにもスマートすぎる動作に、別の意味で心臓がどくどくと音を立てた。 　そのあとに雷が落ちたものだから、そのどきどきは一瞬にして恐怖で上書きされたけど。 『全く。それじゃあ、律のことお願いします。相当怖がってると思うから』 「言われなくても。おまえも一応気をつけろよ」 『きゃあー！　やっさしー』 「おい……って、切れた」 　優馬らしい切り方だ。 　先生がふう、と息を吐いてからスマホを優しく地面に置いて、両手で改めて俺のことを抱きしめた。 　俺の身体はすっぽりと先生の両腕に収まり、落ち着いて呼吸ができるようにまでなった。 　今まで、雷の日でここまで落ち着けたことはない。 　ふー、ふーと呼吸をしていると気づけば雷の音はしなくなって、それは先生が俺から離れてから気づいた。 「たぶんもう雷の音はしないと思う」 「ありがとうございます……」 「気にすんな。でも雨が酷いな」 　先生が座ったままそう言った。 　たしかに、雷の音はしなくなったけど室内にいてもわかるくらい雨がすごい。 　これで自転車で帰るのは無理な話だろう。 　そもそも自転車を漕げるかどうかすら危うい。 　どうしようかな…… 「これじゃ自転車で帰れないだろ。俺の車乗って」 「……ありがとうございます」 「で、どうする？」 　先生の問いかけに、顔を上げて先生の顔を見る。 　どうする？　って、一体なにが。 「おまえの家にそのまま帰るか、俺の家来るか」 「……！」 「正直こんな状態の奴をひとりにしたくないから俺の家に来てほしいんだけど、無理強いをするつもりはないよ」 　もしこれで、俺が家に帰りたいと言ったら先生はその通り家に帰してくれるだろう。 　でも、その先は俺ひとりだ。 　この先天気が良くなるとは思えないし、いつ雷が落ちてくるかわからない状態のまま、ずっと。 　……想像しただけでぞっとした。 「……先生の家がいいです」 「わかった」 　 「まさか律がばっしーと一緒にいるとは思わなかったなー」 「あ、そうなの？　じゃあ心配ないか……てか、ちゃんと先生に言ったか？　雷の日の律はめちゃくちゃ甘えてくるって」 「……えっ」 「すごかっただろ、あのときの律。すげえべたべた甘えてきて、先生知らなかったらびっくりすると思うんだけど……」 「……」 「……優馬？」 「やべえ言うの忘れた……」